04.きっかけ
*Mayo...
あの部長……ホントやる気あるんだろうか。
演技だけは本当に上手い部長を相手に叱り付ける意味を失ってきた。
ホント、曲者ばっかりだこの学校の演劇部……。
あたしの吐いたため息は白く夜空に広がる。
///PROTOTYPE///
あたしが入学した時は、演劇部は数人程度の部員でひっそりと公演をしていた存在だった。
だが、いつの間にか部員は30名近く、なんと夏の大会では最優秀賞をもらった。
何で部員がそんなに増えたのかと、いうと。
現部長に憧れて入ってきたという子が多い。
本当に演技はうまいのだ。
存在感も人並み以上にあるし、何よりカッコイイ。
この学校の演劇部の創始者だというのも頷ける話だ。
が、部会はサボるわ、練習はサボるわやりたい放題なのだ。
おかげでそのしわ寄せがあたしに……
はっきり言ってシロユキ以上にキライだ。
似たようなもんだけど。
ふと、目の前の光景に気づく。
あ―――。
あいつだ。
隣にいるのは、美優。
なんだか落ち着き無くあいつに話しかけている。
それにあいつは、笑顔で答えている。
それは、さながら
恋人同士のようだ。
―――あぁ……近づきたくない。
帰り道が同じだ。
これ以上、二人を見ていたくない。
不意にそんな感情が湧いてくる。
なんだかイライラするのは、さっき部長を叱ってきたからだろうか。
歩調を緩める。
徐に二人から視線をはずして、周りを振り返った。
12月のこの時期はキラキラとしたイルミネーションが目に付く。
はぁ……と白いため息をついた。
意味も無く感傷に浸ってしまう。
不意に、声をかけられた。
「よっ榎本今帰り?」
「あ……うん。いっちーも?」
無邪気、という表現がしっくりくる。
そんな笑顔でいっちーが現れた。
「なに? ちょっと凹み気味?」
あたしの顔を見ると、ちょっと心配そうな顔つきでそんなことを言う。
そんなにあたしは不機嫌な顔をしていたんだろうか……。
「ん〜んっそんなことないよ」
「そう……あ、織部」
「あ……」
目の前のシロユキを見つけると、固まる。
隣の美優に気づいたみたいだ。
「……頑張ってるんだ」
二人を見ながら、そんなことを言う。
「うん」
出来るだけ、いっちーにあたしの中にあるわだかまりを見せないように笑顔で頷く。
「榎本は―――なんとも、無い?」
ドクンッと疼いた。
「なにが?」
笑顔でその質問に質問で返す。
気づかれているのか、と。
でも、いっちーは困ったようになんでもないと笑って視線を戻した。
付かず離れず、微妙な距離で、尾行という形を取ってしまっている私達。
目の前で楽しそうに話している二人を周りの景色と一緒にみる。
何か思いついたように、いっちーが話しかけてきた。
「なぁ、榎本」
「ん? なに?」
「今からちょっとマック行かない? 奢るよ」
「え? いや、いいけど、悪いよ」
「気にすんなって。バイト代入ったしな」
ば、バイト!?
「いっちーバイトやってムグ!?」
「はいはい奢ったげるから黙ってて〜」
し、信じられない……学校の代表者がアルバイトだなんて……。
ちなみにうちの学校は基本アルバイトは禁止なのだ。
まぁ理由があれば出来るらしいし、結構簡単に許可証はもらえるらしいけど。
あたしはズルズルとその生徒会長に引きづられて強制的にマックへと入っていった……。
1階で頼んで、2階の席まで持って上がる。
微妙に人は多かったが、窓際の席が開いていて、そこに二人で腰掛ける。
「短期のバイトでね。携帯で登録できるやつでたまにやってんの」
目の前の彼は意外とちゃっかりしている。
「へぇ〜……ふふふ、すごいね、勉強とクラブと生徒会やってんのによくそんな時間あるね」
遊ぶ時間ってあるのかな……。
ポテトをかじりながら感心する。
「ははっまぁ、時間は使い方次第ってこと」
軽く笑って、でっかいハンバーガーにかじりつく。
なんか、幸せそうでかわいい。
「いっちーってマック好きなの?」
不意に聞いてみたくなった。
「ん? そりゃ好きか嫌いかって言われたら好きだけど」
「だって、凄くおいしそうに食べるんだもん」
「え、そ、そう?」
照れくさそうに頬っぺたを掻くいっちー。
今まで見たことの無い顔だ。
それが無性にかわいい。
普段はしっかりしてるいっちーに頼りっきりだから、こういった側面は全然知らない。
なんだかちょっとだけ嬉しくて、笑いながらポテトにかじりついた。
不意に、いっちーの視線に気づく。
「何?」
「あ、いや―――」
ちょっとだけばつが悪そうな顔をして、視線を逸らす。
そういうのは、とてつもなく気になるものだ。
「え? 何か付いてる?」
と、気にしてみのがお約束ではないだろうか。
先ほどと打って変わって、いっちーの表情は浮かばない。
「榎本は、さ」
「ん?」
「織部が、好きなんじゃないの?」
―――。
思考が止まる。
忘れかけていたあの二人を思い出した。
そんなこと、無いのに。
無いってすぐに言えないのは、なんでだろうか……。
「……そんなんじゃ、無いよっぜんっぜん」
あたしは、美優を応援している。
あいつは応援していない。
それだけ。
「……そっか。ごめんな変な話して」
「そうだよっ。あ、いっちーは好きな子っているの?」
あたしの話は切り上げて、いっちーに話を持っていく。
ここでいるって言えば、学校を挙げて調査しないといけないが。
「え……う〜ん、まぁ……気になる子はいる……かな」
な、なんですとっ!?
「え!? 誰っ」
これは是が非でも聞き出しておくべきだ。
「―――っ……聞きたい?」
「是非」
だっていっちーだし。
美優だった場合は美優を無視して応援したぐらいだ。
……美優の邪魔とも言う。
「榎本」
って、クラスにいたかな……
いや、そもそもあの学校にこの苗字は……
……
……ひとり……?
……あたし……?
―――っっっっっっ!?
「……うそっ!?」
ガタッっとあたしは机を叩いて立ち上がる。
周りの視線を集めてしまい、慌てて座りなおす。
顔を真っ赤にして、顔を逸らしているいっちー。
かく言うあたしも、多分真っ赤だ。
―――告白、になるのかな。
目の前にいるのは、生徒会会長。
完全無欠といわれる、水ノ上優一。
頭良くて運動できてカッコイイし優しいし、今カワイイところも見てしまった。
告白して振られている子も多いと聞く。
その、彼から。告白されてしまった。
―――どうしよう。
さっきから動悸が治まらない。
恥ずかしさのせいか、彼を直視することもできない。
無言の気まずい空間。
それに耐えかねたのか、彼はジュースを一気に煽ると、あたしに向き直った。
それは、どんな時より、真剣な顔だった。
「俺は、榎本、好きだよ」
―――っ。
ドキドキは、止まらない。
心臓の音が大きくて、周りに聞こえるんじゃないかってぐらい。
「―――っ今すぐじゃなくていい、返事は―――」
しなくても、良いと、彼は言った。
友達でいる、選択肢を残してくれている。
色々含んだ表情を残して、バイバイっと彼は、足早に去っていった。
終始、あたしは呆然と頷くだけだった。
そこに残されたあたしは、呆然と、彼の奢ってくれたポテトとジュースを見つめていた。
*Yuichi
足早に店を出る。
外の冷え切った空気が涼しい。
ごちゃごちゃしていた頭が急に冷静になる。
「……あぁ〜〜……もう……俺の意気地なし……」
返事が聞けるまでいればよかったのに。
初めての告白だった。
今まで告白されることはあってもすることは無かった。
知らなかった。
こんなに勇気がいるなんて。
今まで断ってきた子たちに凄く申し訳ない気になってくる。
しかも返事を先延ばししてしまったから全然落ち着かない。
―――よし、家まで全力疾走決定。
俺は鞄を強く握りなおすと、スタートの合図も無しで、思いっきり駆け出した。
すぐに横腹が痛くなって、スピードダウンしたけど、そのまま走り続けた。
これで、どんだけ顔が赤かろうが不思議じゃないだろうから。
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