06.空と景色

*Mayo...

チャイムが鳴った。
4時間目の終わり。
あたしの後ろの席はいそいそと立ち上がって、購買へ行くみたいだ。
あたしは机に突っ伏したままため息を吐く。
―――食欲無いなぁ……
いつもは隣の教室に行って美優たちと食べるんだけど、そんな気分じゃない。
どこか、誰もいない場所に……。
スッと力なく立ち上がると、あたしは屋上へと向った―――。

///PROTOTYPE///

春や秋に人気のあるこの場所は、夏や冬にはあまり利用者がいない。
特に真冬のこの時期、寒くて誰も使わない。
―――今日は冬にしては珍しく快晴で燦々と照る日に当たっていると結構暖かい。
あたしはベンチではなく、ハシゴを上って学校の一番高い場所に上っていた。
ここに上るのは初めてでなんとなく新鮮な風景が広がって気持ちよかった。
深呼吸して、ため息と一緒に吐き出す。
男の子に告白されたのは実は初めてじゃない。
数えるほどだけど、そのすべてはその場で断ってきた。
あたしが好きになれそうに無かったから。
どちらかと言うと、自分から告白するぐらいの方がいいとあたしは思ってる。

―――で、いっちーなわけだけど……。
当然キライじゃない。
欠点が無くてみんなに好かれている。
でも、それって、
 「遠いよ……」
白い塊を吐き出す。
それはすぐに寒空に消えて、あたしだけを残す。
「何が?」
思いがけない、声。
「―――っ!」
なんで、こいつがここに?
「あ、あんた、何でこんなとこにいんのよっ」
「いやぁ、こんな寒い時期に屋上にいる変な奴をみつけたもんで」
よっと、なんていいながらハシゴを上りきって、あたしの目の前まで歩いてくる。
「―――どうせ、変ですよっ」
そんなの、自分が一番良く分かってる。
「あぁ。変な真夜だな。どうした?」
いつも通りの顔で普通に話しかけてくる。
息が詰まる。
そんなそいつを見れなくて、あたしは目を逸らす。
「なんでもないっほっといてよっ!」
思わず強く言ってしまう。
ハッとして見上げると、そいつは少しだけ悲しそうな顔をしていた。
「そっか。わりぃな。邪魔した」
ばつが悪そうに、踵を返す。
「―――っちがう……っそうじゃなくて―――」
「?」
思わず引き止めてしまった自分に驚く。
「その……あんたは、なんか用があったの?」
「あぁ。真夜が元気なかったから。聞けたら聞こうと思って」
ダメっぽいな。なんて首を振る。
「あ、そだ。メシ食ってないだろ。ほら」
そう言って自分の袋を差し出す。
結構レアなもん買えたぜ? なんて自慢げ。
「いや……あんま食欲ないからいい―――」
「待て待て待てまよっ」
ピシィっとあたしに指を突き立てて言い放つ。
「こんなレアパンたちを前にして食欲が無いなんぞ俺が許さんっ」

グッと拳を握って力説する白雪。
無性に笑えてきて、ついに笑い出してしまった。

「あはははっあんた変な奴っはははっ」
「うるせぇっいいから食べろっ」
「うん」
あたしはそのパンの中から、一個だけパンをもらう。
レアチーズケーキパン。
この学校の限定パンで、購買10個という貴重なパンだったような……。
「え? いいのこれ……」
「いいから食えよ。俺はいつでも食えるんだから気にすんな」
ガサガサと自分のパンを出しながらあたしの隣に座る。
その出されたパンは真っ赤で、「鬼辛!!」というパッケージの本当に辛そうなパンだ……。
そのパンに躊躇無くかぶりつく白雪。
……信じらんない……。
が、やっぱり凄く辛いパンだったらしくあたしの隣で悶え始めた。
「ふがっ―――!!!」
「……あんた、アホでしょ」
あたしは袋からカフェオレを取り出して開けて渡す。
「―――っっんっ―――ぱっはぁ!! 辛っなんじゃこりゃ!」
真っ赤な顔してヒーヒー言ってるシロユキを見ているとやっぱり笑える。
「あはははっ大丈夫?」
「一応な……うはっ辛っ」
一口でコレならもう食べれないんじゃ……。
案の定、涙目のこいつはパンを袋に戻すとまた、ガサガサと漁りだす。
次なるジャンクパンは水飴配合だそうだ。
あたしも袋をあけてパンにかぶりつく。
あ、美味しい。

あたしがそれを食べ終わる頃には、あいつはもう全部食べ終わっていた。
「……ご馳走様。美味しいんだねやっぱ」
正直なあたしの感想。
幻のパンになるのも頷ける。
「だろっ? 結構大変なんだぜ」
笑うと、会話が終了する。
白雪は、何も言わず気持ち良さそうにに空を見上げて、あたしは風景に目をやる。
ゆっくりと流れる時間が、心地よかった。
「―――真夜が」
不意に沈黙が破られる。
「ん?」
「真夜が、ちょっとでも元気になってよかった、なと思った―――」
―――。
あぁ、こいつは、そのためにここに来てくれたんだ。
……あたしのために―――。
あたしを見てフッと笑うと勢い良く立ち上がる。
「じゃ、俺教室戻るな。あ、それはやるよ。」
快晴の空の下を歩きながら振り返る。
「じゃぁな」
「うん―――」
笑う少年を見送る。
やるといっていたのは、ここに置いてある飲み物だろう。
あたしはそのカフェオレをちょっとだけ飲む。
―――甘い。

間接キスだと気づいて真っ赤になったのは、飲み終わった後だった。

*Miyu...

昼休みが終わった。
とうとう真夜は、お昼を食べに来なかった。
「来ないなら来ないって言ってくれればいいのに……」
しゅ〜んとうな垂れると、お弁当箱を片付ける。
一応隣の教室を見に行ったのだが、真夜は居なかった。
「ミューってばそんな律儀に待たずに食べればよかったのに」
そんな私を見て、アスミがは〜っとため息をつく。
アスミとは同じクラスで同じ演劇部。
真夜と3人でよく集まっていることが多い。
アスミは黒髪のサラサラストレートでとてもスタイルのいい美人さん。
前髪は両方に分けておでこを出している。
たまにというかよく髪で遊ばせてもらう。
「どっかの犬の銅像じゃないんだから」
なんて皮肉を言いながら、さっと髪を掻き分ける。
その仕草はもうモデルのようにしなやかでつい見とれることもあるぐらい。
「そ、そんなっもし真夜が来た時にかわいそうじゃんっ」
一人でご飯を食べるのがどれだけ寂しいことかっ
「今あんたが一番可哀想なんだけどね」
いーこいーこなんていいながら頭をグリグリと撫で回す。
うぅ……バカにされてる気がするよぅ……。
「アンタはちょっと真夜離れしなさい」
グリグリ撫でていた手が急に私の頭を掴んでグルグルと回しだす。
「う〜あ〜……そんなこといわれてもー」
真夜と食べるから、お昼は楽しいのに。
あたしの頭を掴んで回していた手が、急にピタリと止まる。
「……そういやミュー。織姫と噂になってたじゃない」
思い出したように急に話が変わった。
「みたいだねー? なんでだろ?」
ちなみに織姫とは織部君のことだ。
名前が白雪でシロユキと読むから、白雪姫って呼ばれてたんだけど……
あんまりにも嫌がるから織部の姫で織姫らしい。
当然、そう呼ばれても怒るけど。
「ん〜? しらばっくれてんじゃないわよ〜? 一緒に帰ってたって言う噂がもう、学校中にひろがってるんだから」
何故か得意げにあたしを見下ろしてくるアスミ。
私はキョトンと彼女を見上げている。
「うん。一緒に帰ったよ」
「ほらやっぱり」
「うん」
だって校門の影で待ってたし。
織部君を見つけたはいいけど、どうやって声をかけようか迷ってるうちに目の前を通り過ぎていって思わず叫んでしまった。
「…………あんた、自分が学校にどう影響する人間か、頭に入ってる?」
アスミは訝しげな顔で、コンコンとおでこを叩く。
「あはははっアスミじゃあるまいし、私なんかじゃそんな大したこと出来ないよ〜
大げさだなアスミは〜」
あはは〜と笑ってそれを否定する。
そんな漫画みたいなことには実際ならないんだからね?
チャイムの音が鳴り授業の始まりを告げる。
アスミは難しい顔で自分の席へと戻っていった。

私と、真夜についてのお話。
私と真夜は中学校からの親友で、ずっと演劇部でやってきている。
舞台に立った真夜は凄い。
演技を演技と思わせない自然な動き。
すべての目を奪う存在感。
そして、人に涙を流させる、あの声。
一流の役者として十分な力がある。
私も、彼女に魅せられたその一人。
彼女の立った舞台を見て涙を流した。
同じ舞台に立っていたにもかかわらず、私は泣いていた。
彼女の織り成す舞台の中の本物の世界に―――
私達も本物になるように―――
彼女は演じる。
頭の先から足の先、その息遣いですら演技だとあたしは思う。
それでも
それでも彼女は自分を失わず―――。
誰よりも楽しそうに、舞台に立っていた。

それが榎本真夜という人の最大の魅力だと思っている。


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