08.揺心

*Shiroyuki...
ジリリリッガチッ
リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
「うっ――――――せぇぇぇぇ!」
あまりの煩さにキレ気味になりながら目覚ましをたたききる。
ガツッといい音がして、平和な空間に戻る。
―――……。
……。
「……おきりゃいんだろ……あ〜」

///PROTOTYPE///

やる気無い声を出しつつ布団から何とか起き上がる。
目覚ましに目をやると、7時50分。
丁度いい時間だ。
首を鳴らしながらベッドを降りる。
ガリッと何かを踏んだ。
ん?
足に引っ付いてきたそれを手に取る。
茶色い三角の先に黒い丸の付いたプラスチック。
ぁんだ? これ……
ふと、目覚ましを見る。
この目覚ましは詩姫の部屋から借りてきた目覚まし時計。
詩姫の一押しと言うことでキツネの目覚ましだ。
そう。キツネの―――鼻かこれは!?
よく見るとポロリと鼻が根っこから取れて、茶色いブタみたいになっている時計。
ヤバイ…………やばいって!!
どっと冷や汗が寝起きの背中を駆け抜ける。
詩姫の目覚ましコレクションのなかの一押しと言うことは、かなりのお気に入りだ。
引っ付くわけも無いのに、とりあえず型をあわせて見る。
うん。間違いなく鼻だ……。

「お兄ちゃん起きた?」

ギャーーーーー!
コレを見られたら一週間断食の刑がまた!
「おおぉおう! お早う詩姫!」
さっとパーツを自分の後ろに隠す。
「うんっお早う。ねっ? その子結構うるさいでしょっ?」
ニコニコと部屋に入って近寄ってくる詩姫。
やばいっ!
ここは―――強行突破だ!
「あ、ああぁ。でも、コレぐらいが丁度いいみたいだっしばらく借りるなっさ、朝飯だーーっ」
それ以上は見せないように詩姫を抱き上げると、部屋の外へと連れ出す。
「え? わっわっ!?」
ふぅ……今日は接着剤買いにいかねぇとな……

何とか切り抜けて、詩姫と一緒に家を出る。
が、家の前でいきなり逆方向なので詩姫を見送って俺も学校へと出発する。
コレが織部家的な日常だ。
しばらくはポテポテと一人で歩き続ける。
「―――よう。今日は早いんだな」
唐突に、後ろから声がかかる。
そこにはいつもの顔で啓輔がチャリをこいでいる。
「おう。キツネに呪われててな」
「なんだそりゃ」
俺はそれだけ言うと、その後ろにあるステップの上に乗るとGOサインを出す。
ここに乗るのはもう決まってるようなもんだ。
たまに俺が前に乗ることもあるが大体は後ろが俺の定位置だ。
いつものように下らない雑談をしながら登校する。
「お、あの後姿は美優ちゃんじゃないか?」
「あ。ミューだ」
シャーっと自転車で彼女の横につけて並列して走る。
「おはよ」
「よぅお早うミュー。今日はマヨと一緒じゃないんだな」
「あ、おはよー。高井君、織部君。真夜、今日は休むみたい」
少し残念そうな顔で俺を見上げる。
「お。珍しいな。昨日は鬼のように走ってたのに」
よっと、軽く自転車を降りて、ミューに並ぶ。
「うーん。滅多なことじゃ休まないのになぁ……」
「頑丈だからな」
「あはははっそれもそうだけど、真夜学校休むのキライだから」
得意げに胸を張る彼女は満面の笑みを見せる。
さすがは学校のマドンナの一角だけあってちょっとだけドキッとした。
……正直、可愛かった。
「っておおおい!」
ふと、前を見ると遥か彼方に俺の相棒が。
「高井君、全然スピード落とさずに走って行ったけど……?」
「んにゃろぅ……ま、いいや行こうぜ」
「うんっ」
彼女はふわっと笑って見せると軽い歩調で歩き出す。
なんとなく近寄りがたい雰囲気だがそれは彼女自身の出すオーラみたいなものだろうか。
まぁ、俺は大して気にならないけど。
一瞬だけ考えて俺も彼女ついて歩き出した。

「そういえば、織部君次のライヴっていつ?」
ふと彼女はそんなことを話しかけてくる。
バンドは2〜3ヶ月に1回ライヴをしているがそれ以外は殆ど目立った行動はしていない。
なんたって中学生だった俺らは、金が無かったし。
たまに仲間の一人が路上でやろうなんて言い出すが、一度それをやって警察に怒られた。
でもそのおかげでとりあえずインディーズには足が掛かったが。
まぁ忘れられた頃にまたやろう。
「ん。今度は来週の日曜」
「え!? そうなのっ? チケットは?」
「あ、あぁ。そういやあいつ等にまかせっきりだからどうなったかわかんねぇや」
「そうなんだ……欲しかったのになぁ」
む。そう言われると嬉しいじゃないか。
最近チケットが完売するようになったので、危ないかもしれない。
「む? なら聞いてみるわ。まだあまってないか」
俺は早速携帯を取り出すとメンバー宛にメールを打ち始める。
「え、あ、いやいいよそんな気を使ってくれな―――」
「いや。遠慮すんなよ。聞きたいって言ってくれるならその人を優先したいしっ」
ミューの言葉を遮って俺はメールを打つ。
……送信っと。
俺はなんとなく満足して心配そうな顔をしているミューに笑いかける。
「心配すんなってす〜ぐみつかるよっ」
「―――うん」
彼女はそんな俺に満面の笑みを返すと
「……ありがとう」
なんて、口にした。

―――ドクン。

心臓の音が、一瞬だけ―――、一回だけ大きく鳴った。
大したことはしてないはず。
でも嬉しかった。
「―――お、おう」
何故か急に気恥ずかしくなって、目を逸らす。
耳の辺りが熱くなったような気がした。
「ま、行こうぜ。チャイムそろそろっぽいし」
「だね〜っ」
言って俺たちは校門へと向かって歩き出した。

―――何故か。隣に居た美優が気になって仕方なかった。

*Miyu...
織部君と学校に登校した。
チケットもあまりがあったみたいで明日にでも持ってきてくれるみたいだ。
織部君と教室の前で別れ、私は上機嫌に教室へと入る。
「お早うアスミっ」」
入って早々アスミに挨拶をする。
入ってすぐの見える位置にアスミの席はある。
「おはよミュー。真夜は?」
軽く手を振って挨拶を交わす。
私はそのアスミの席の後ろにある自分の席に付くと鞄を下ろした。
「それが……今日休みだって」
鞄の中をごそごそと出しながら言う。
「げっ……珍しいわね……あーあ。今日部長絶対遊びだすわね」
本当にいやそうな顔をしてアスミはため息を付く。
意外と言うか見た目どおりというか、
真面目な性格のアスミはあまり部長をよく思ってないみたいだ。
「あは。ホント困っちゃうよねー」
まぁそれでもいつも通りなので軽く流すことにする。
「もー……。ミューはじゃぁ今日一人だったんだ」
そう言われて軽く私は動きを止める。
う……う〜ん?
ここは何も言わない方がいいのかな……?
……うん。アスミだしまた何か言ってきそうだし。
「え、あ……うん。一人〜」
私は笑顔でそう答える。
するとアスミも急に笑顔になる。
ストレートに美人の笑顔は多少怖さも秘めている気がする。
「……ミュー? 嘘ついたでしょ?」
ずいっとその顔のままであたしに近寄る。
ば、ばれてるっ!?
「え、な、何のことですかな〜?」
「ええぃしらばっくれるなっ」
むにっと頬っぺたを摘まれるとグリグリとまわされる。
「いひゃひ! あふひっいひゃいっ!」
いたいって本当に〜っ
「ほらーお姉さんにちゃんと本当のこと言いなさい?」
なんだか眼が据わっている。
あまりの怖さに私はコクコクと頷くと頬っぺたが開放された。
「ひどいよアスミ〜」
「おだまりっ嘘つくほうがわるいのよ」
なんだか板に付いたお嬢喋りに圧倒されて、背筋を伸ばす。
アスミはこういった役柄を多く割り当てられるため
自然とこういうスタイルになってしまったと言っていた。
でも元々がそうでも全く違和感が無いから私は言われるまで地だと思ってたんだけど。
アスミはニヤッと邪悪な笑いを見せると私に顔を近づける。
「む〜……どうしても言わないとダメなの?」
「だめ」
ノータイムで否定するアスミ。
プライベートを守る権利が欲しいです隊長……。
こうなったらテコでも引かなさそうなので私は大人しく本当のことを言う。
「おり―――」
「あぁぁ……いいわもうみなまで言わなくても」
私から視線をはずすと指をおでこに当ててあちゃーなんていうポーズを取る。
「別になんでもないって。たまたまだし」
何でそんなに言われないといけないのだろう。
「いや、そうじゃないのよー……」
言うとなんとも言いがたい表情で私と虚空を見る。

*Asumi...
静かな授業中。
チョークと先生の声だけが響く教室で私は黒板をぼぅっと眺めながら真夜のことを考えていた。
私がミューと織部とのことを邪険するのはワケがある。
ひとえに私の勝手な偏見だが、私は真夜と織部の組み合わせの方が好きだからだ。
1年のときに同じクラスだった私はあいつ等がどれだけ似合っているか良く分かる。
―――真夜は織部が好きなはず。
私は直感的にそう感じている。
織部は鈍い。
感じたままに生きている感じはするが、そういった色恋ごとは全然で音楽一筋のアンポンタンだ。
真夜も真夜で素直な性格じゃないからいっつも強く織部に当たる。
でもそんな自分をさらけ出せてるのが織部だけって気づかせてやれば、
多少は局面がかわるかな―――。
でも私が色々茶々入れるのも気が引けるし……。
……なんて言うかイライラする。

―――あぁもう! なにやってんの真夜っ!


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