12.確変

*Mayo...

「ごめんなさいっ」
三日ももらって言えたのはそれだけだった。
あたしはいっちーと教室をでて、校舎の裏に来ていた。
人影はめったに無いし、ましてやこの時間ここに用事のある人なんていないだろう。
あたしは頭を下げているため彼の顔はみえない。
「…いいよ榎本。頭上げなよ」
あたしはゆっくりと顔を上げて彼を見る。
いつものように笑顔のいっちーも心なしか悲しそうな影を落とす。
あたしは無くなってしまうかもしれない平穏を選んだ。

///PROTOTYPE///

嘘を吐いて生きるのは性に合わない。
嫌いじゃない。
好きになれない訳じゃない。
「いっちーにはどんな子だって幸せにできるよ。
 でも………。
 それは―――」
彼の横のあたしは似合わない。
「あたしじゃない」
そう、思う。
「好きになってくれたのはうれしいよ。
 でも、その先はあたしが好きにならないと始まらないの。」
 あたしはあたしが好きになった人に自分から言うの。
 大好きです。って。
 だから受け取れない。
 勝手かもしれないけどあたしがそう決めたんだから。
「だから…ごめんね」
「あぁ―――いいよ。ごめんなわざわざ」
悲痛な笑顔。
今にも泣きだしそうな儚い表情。
それでも笑い続ける事はあたしにはできないだろう。
「…やっぱりいっちーは俳優になるべきだよ」
「…あはは。考えとくよ」
じゃあ。と立ち去る水ノ上優一。
きっと彼は変わらなく接してくれるだろう。
いままでと、全く。
あたしも、彼を涙無く見送る。
ら、せめて見送ろうと思った。

と、あたしは目を張った。
「榎本! 俺は!」
あたしを振り返る彼には
「…俳優になんかなれないっ!」
涙があって
「笑おうと思ってたんだけど!
できないんだっ!」
悲しみに歪んだ顔をして
「かっこわるいけどっ!
やっぱ―――」
無様にも叫ぶ。
普段の彼からは想像もできない姿。
彼の声があたしに呼び掛ける。

「真夜が好きなんだ!!」

初めて、演技じゃない涙を流した。
彼の叫ぶ声はあたしの心に強くぶつかった。
「っ―――なんでっ振り返ってまで―――」
「わかんないよ!でも我慢できなかったんだよっ!」
時折みせていた子供のような表情で叫ぶ。
我儘で純粋で強い。
あたしもつられて大声で叫んだ。
「いっちーにはもっといい子いるよ!」
「俺が好きなのはいい子ってのじゃないっ!」
「もっとかわいい子いるよ!」
「かわいい子でもない!」
「悪かったわねっ!」
「悪くないっ!」
「趣味悪いっ!」
「悪かったな!」
「あたしっこんなに口悪いんだよ!?」
好きになってもらうのは、こんなにも不安。
自己嫌悪する。
嫌な奴。
あたしは―――こんなあたしは好きになってもらう資格なんか無いんだから―――。
目の前には不屈のまなざしをあたしに向ける水ノ上優一。
「真夜は自分が嫌い?」
「大っ嫌いよ!」
あたしは言い放つ。
本当に大っ嫌いだ。あたしなんか。
「そっか…でも」
いっちーはいつもの困ったような笑顔。

「俺がずっと好きでいるよ」

一度拒んだ手を差し出す。
「あ………」
あたしは差し出された手に迷う。
それが霞んでよく見えない。
あたしは顔を伏せてその手を取った。
「………あたしなんかでいいの?」
「真夜だからいいんだよ」
あたしが俯いてるため、顔は見えない。
「っ後悔しないっ?」
「するかも。後のことはあんまりわかんないや」
「無責任っ!」
顔を上げる。
涙の後の残る顔と、真剣な瞳。
「なんだってする」
また、その言葉が電流のように体を奔る。
あたしは絶句する。
彼はゆっくりとあたしの手を両手で包み込む。
「真夜が好きだから」
心臓の音は、破裂しそうなくらい大きくて。
彼の言葉に釘付けになったあたしがいる。
何も考えていない。
ただ、ひとつあたしの口から出た言葉は―――















「……うん。お願い、します」



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