14.アスミ
*Asumi...
休日。
すべての土日は、休日。
いつこんな風になったかは忘れたが、週休二日はじつに効率がいいと思う。
もうすぐ冬休みもあるため、
うわだった雰囲気の街がきらびやかなイルミネーションで飾られている。
その休日の1日を利用して私は、本屋に出かけていた。
///PROTOTYPE///
寒空の下の午前。
私はきれいに作られた商店街のタイルの上を歩く。
一人で居るときの足並みは早い方だが、今日は人波にあわせて歩いてみた。
なかなか……ストレスが溜まる。
やっぱり自分のペースでと歩き始めたのは、目的地の手前だった。
生き急いでる気がしなくも無いが、それが性分なら仕方ないものだ。
ここら辺で一番大きい本屋さんは商店街の中にある。
一人分しか幅の無いエスカレーターを上ると、本ばかりの広い空間に出た。
大して目的の本は無かった。
多分、そろそろ発売の雑誌があったら買おうと来てみただけだ。
人の障害をよけながら目的の棚へとたどり着く。
……あ、出てる。
毎月買っている有名なファッション誌が出ているのでそれを手にとってパラパラとめくってみる。
……
……あ、これいいな……
……これ、ミューとかに似合いそう。
……あ、そいや真夜が誕生日じゃなかったっけ。
でも、今月あんまお金ないしなぁ……
は、帰って読まないと意味ないじゃんっ!
パタッと本を閉じる。
本を読みながら考えたり思い出したりすることは多い。
もともと雑念の多い人間だと自分でも思う。
本を見回しながら、何か適当によさげな本を探す。
文庫系は……いいかな。
まだ読みきってないのがあるからそれが読み終わるころに買おう。
角を曲がって、その先を見る。
割と若い人たちが並んで立ち読んでいる芸能系のコーナー。
意外と長いその道を本を眺めながら進む。
「あ……」
思わず声を出してしまった。
蚊ほどの声なので気づかれることは無いだろうが黙々と雑誌を立ち読む人物に見覚えがある。
と、いうか織部だった。
何でこいつがここに―――?
……まぁ、本ぐらいこいつも読むだろうけど。
私は見て見ぬふりをすることに決め、静かにその場を去る。
面倒と嫌いな奴には関わらないのが一番だ。
棚を移動して新作小説の棚を眺める。
最近映画になった話題作が堂々と一位を飾って、
続くように大物新人作家の売り出しがある。
適当な作品を手に取って最初のページをめくる。
……
……あー…これはイマイチ。
カツッと本棚に戻す。
どうも集中力に欠ける。
私は回りを見回すと、また奴を見つけてしまった。
……
私は無言で別の棚へ移動することにした。
…そういえば参考書も見とかないと。
棚を移動してスーッと眺める。
そして徐にキョロキョロと辺りを見回した。
……よし、いな―――い?
そっと棚の端から元来た道を覗き見る。
!きたっ!!
私は棚の反対側に回り期を待つ。
ふふ、奴が向こうを通った時に反対側に歩けば完璧……
スッと棚の向こうを覗く。
敵影まだ見えず。
突然、ポンッと肩を叩かれた。
「何探してんだ?」
「!!」
し、しまったぁ!
後ろを取られたかっ!
「あんたに見つからないようにしてたのよっ」
「お、ひでぇな。オレは本を見回ってただけだってのに」
ニヤーッとした顔がそれは嘘だと裏付ける。
「……嘘ね。私をからかいたいだけなら、やめなさい。蹴るわよ」
「はははっOKやめとく。ところで山菜。今暇か?」
「……何?ナンパ?」
「……好きに取れ」
はぁ…っと溜め息を吐きながら、私を見る。
失礼な。
これでも何度かはされたことあるってのに。
「じゃあ何よ」
「ふむ。真夜に誕生日プレゼントを、な。
オレももらったし何かかえさねぇと気味悪いし」
「私には今のあんたのが気持ち悪いわよ」
「ほっとけっ! ……んで。
何買えば良いのかさっぱりだからな。
山菜に聞こうかと」
へぇ。
こいつは意外と義理堅いらしい。
私からすれば本当に意外だ。
「ふーん……」
まぁこんな奴に誕生日プレゼントを渡す真夜も真夜だが、こういうやり取りは良い傾向だ。
本当、仲がいい。
……そうだ。
ふ、ふふ。
良い事思い付いた。
「いいわよ」
「…なんだその不敵な笑みは…」
訝しげな顔をして後ずさる織部。
頼んだ建て前引きはしない。
「なんでもないわよ。さ、行きましょうか」
私は織部を促して歩き出す。
面白いことになりそうだ。
「こっちのがかわいいって」
「悪趣味ね…こーいうの選びなさいよ」
「じゃあそれ」
「自分で選んだのにしなさいよ」
「どっちだよっ」
私が選んだのと自分が選んだのを持って私に叫ぶ。
ちなみにここはアクセサリーショップ。
この街にしかないお店だが結構広く、商店街の端という良い位置に構えている。
手頃な価格で良いアクセが買えて若い子に人気のお店だ。
「私が選んだんじゃ意味無いでしょう?」
「別にそこまで深い意味は無いからいい」
あっさり私が選んだのを持ってレジへと向かう。
「せめてもうちょっとは悩みなさいよっ」
そのあっさりさに思わず反論してしまう。
「うーん…どうでもいいや」
「……あんたってひどい奴ねっ」
さすがに真夜がかわいそうに思えてきた……。
カレカノになればちょっとは変わるだろうか……。
「だって真夜だぜ?」
そこで同意を求められても困る所だ。
一応友達として。
私は軽蔑の視線を織部に送る。
「……わかったよ。まじめに考える」
むむっとアクセサリーと見合う織部。
鑑定をしているかのようにくるくると指輪を回す。
織部のセンスは悪くない。
ただ考えが男の人なのだ。
テストをしているように考える姿は面白い。
むっと私を振り返ると子供が拗ねたような顔になってまたアクセサリーと睨めっこを始める。
私はその様子をただ見守るだけ。
ふと思い出したように私を見て悩む織部。
「あ」
それはふと答えを思い出した反応。
真剣にアクセサリー達を見回り何処かへと歩き出す。
私はあえて付いて行かなかった。
私もアクセサリーを見回して織部の帰りを待つ。
……織部がここで買うなら私はお菓子とかにしようかなぁ。
「やーまなー」
その声が人の波をくぐって私に届く。
そこまで大きな声じゃないが、織部の声がそれを可能にしている。
私は手招きする彼にテコテコと寄っていく。
いくつか視線が集まるが、私は気にしない。
「何?」
―――いきなり私の手を取る織部。
な……!
「このぐらいで」
そう言って店員の前に私の手を差し出す。
店員さんは糸をすっとわたしの指に通す。
……! 私の指にはまる指輪!?
「ちょっと! そういうのは本人の―――!」
そういいかけたとき、こいつは満面の笑みで私を見返す。
「この前、山菜の指輪を真夜がつけてたろ?」
―――……そうだった……。
この前、そんなことをやっていた記憶がある。
「……よく覚えてるわね……」
それにはただ笑顔を見せるだけで、お店の人が私の指を測るのを楽しそうに眺めている。
「……はい。それでは在庫の方も大丈夫ですので先ほどのものでよろしいですか?」
「うぃっす」
「それではこちらの方で会計承ります―――」
織部はそのまま簡単に会計と2、3の言葉を交わして店員を待つ。
私の位置からは店員が何を持っているかは確認できなかったが、
とりあえずは指輪だということがわかる。
まぁ……自分で選べたみたいだからいいか。
……まるで初めておつかいに行った子供を心配してた言葉がよぎる。
「はい」
言っていきなり私に紙袋を差し出す。
「……?何?」
訳が分からず聞き返す。
「コレは山菜に。店員がマケてくれた」
「は? なんで?」
「……正確に言えば、彼女さんにってさ……ゼロ円スマイルももらってきたけど」
壮絶に誤解を受けてどうやら弁解する気もなくしたらしい。
ふーん。まぁ、そういうことなら。
私は紙袋を素直に受け取ることにする。
「ま、今日時間もらったお礼ってことで」
「ええ……一応、ありがとう……」
なんだか、お礼を言うのが気恥ずかしくてそっぽを向く。
むー……織部なんかに……。
「はははっ山菜にも可愛いところあるんだなっ」
「……うるさいわねっ大きなお世話よっ」
ホント、一言多い奴だ。
人のことは言えないが、人事ゆえに思ってしまう。
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