15.参戦
*Shiroyuki...
「山菜、もう帰るのか?」
山菜にそう聞く。
オレに付き合ってくれたってことは大した用事はなかったんだろうからあとは帰るぐらいだろう。
「ええ。本はさっき買ったし」
「そーか。送るぞ?」
「いいわよっあんたとなんかもう歩きたくな―――」
憎まれ口を叩くのはこいつの癖なんだろうか。
オレはその台詞を言い切る前に割り込んでやる。
「バイクだけど」
たまの土日ぐらい、好きに乗ってないと腕が鈍るからな。
絶句したようにオレを見る山菜は面白かった。
///PROTOTYPE///
「え?」
ポカン。
なんていう表現が似合いそうだ。
「……あんた、バイク乗れるの……?」
無表情だ。
呆気に取られているのか猫みたいに良くわからない表情だ。
「乗ってるけど……あ、昨日、ミュー乗っけて学校行ったぞ?」
緊急事態につき、だけどな。
「二人乗りは慣れてるし」
詩姫だって乗っけるし、啓輔もたまに乗ってる。
……よく、サツキもご利用になられる。
「まぁ、いいならコレで」
無理強いもしない。
同い年の二人乗りなんて怖い以外の何者にもならないしな。
わしっとオレのの服の端が掴まれる。
「……のる……」
「え?」
思わず聞き返した。
なんだかガキっぽく俯いている山菜が上目遣いにオレを見る。
「のるっ」
強くそう言ってくる。
そんなに主張しなくても乗せてやるけど……
「あ、あぁ。わかったけど……意外だな」
こんなにガキっぽい山菜が、とは言わない。
「別にいいじゃないっ」
ぷぅっと膨れてさらにガキっぽさが増す。
まぁ、好奇心が強いのは知ってるし、こういう奴乗っけるのも面白そうだ。
オレはフッと出た笑いをかみ殺して、歩き出した。
「あぁ。むしろそっちのが良い。……置いたのはあっちだ。行くぞ」
バイクは趣味のひとつだ。
言ってしまえばカッコいいから。
だって、カッコいいじゃん?
別に理屈なんて持ってないし、走ってる感覚が好きなだけだ。
ガソリン代が勿体無いから週末に1度乗るか乗らないかぐらいだが。
ほら、でもあるじゃん?
いざって時が。昨日みたいな。
……ただカッコいいから取ったわけじゃないことを信じて欲しい。
遅刻対策にとオフクロに勧められた。
おかげで遅刻激減だ。
もっとも、詩姫がちゃんと起こしてくれるので大丈夫なんだが。
どうしても駄目な日が1ヶ月に5、6回はあるんだよ。
バイクの元にたどり着いた。
商店街の途中の道で抜けて、人通りは少し多いがその道の端にバイクは置いてある。
オレは、ヘルメットを取り出して山菜に渡す。
ミューは緊急事態だったのでオレのをかぶらせたが、標準装備でヘルメットはもうひとつある。
「ほれ。ちゃんとつけとけよ」
「分かってるわよっ」
素直にそれをかぶってあごの下でカチリとベルトを締める。
オレも引っ掛けておいた自分のヘルメットに頭を入れ込んでスタンドを外してバイクに跨る。
エンジンをかける。
余計な改造はしていないので普通の音だ。
あまり煩いのも好きじゃない。
低いエンジン音が、体に響く。
「うし。乗れよ」
オレが言うと、山菜は大人しくそれに従って後ろに乗る。
控えめにオレの肩を持つと、乗ったっとオレに言う。
「あー、しっかり掴んどけよ?」
オレは振り返って忠告する。
ミューは思いっきり抱きついてきたが、そこまでしなくてもいい。
……ふむ、一応聞いた方が良いのか?
「なぁ、山菜?」
「何よ?」
「速いのは駄目か?」
そんなこと、と山菜は笑う。
「ううん。むしろ好きよ私は」
淀みない笑顔でそう言ってくれた。
は、そうか。
なんとなく嬉しくなってオレはハンドルを握る。
「て言うか、スピードは出せるだけ出しなさいよね。その方が楽しいでしょ?」
「おおっ? OKっビビるなよ?」
一回大きくエンジンを回す。
準備は万端。
「誰に言ってるのよ?」
得意げな顔が浮かぶ。
その台詞は山菜にぴったりだ。
オレは答えず、ギアをローにいれて走りだした―――。
180kmを記録した今回の海岸線爆走帰宅に山菜は終始笑っていた。
もちろんバイクの上で、だ。
「あー楽しかったー」
ご満悦の様子で揚々とバイクから降りる。
「そりゃ良かった」
スピード狂か? とも思ったが、人のことは言えない。
実際オレも楽しかったし。
「はいっありがと」
ヘルメットを外してオレに渡す。
オレンジ色の光を浴びるヘルメットが長い影を伸ばしながらオレの手に渡る。
オレはすぐにそれを座席の中にしまうと、もう一度バイクに跨った。
「でも意外ねー。バイク乗れたんだ?」
かなり今頃、それをもう一度オレに聞く。
「別にオレぐらいの奴が乗ってるのは珍しくもなんともないだろ?」
「ううん〜? 意外と持ってないものよ?
持ってるのは2流小説の主人公ぐらいのもんだもの」
2流っぽいってか。
「そうかい。そりゃどーも」
一応夏休み頑張ったんすよオレ。
「でもあのジャンプはやり過ぎね。いつか死ぬわよ?」
あの瞬間だけ、後ろの笑い声が消えた。
ついでに思いっきり抓られた。
「だからって無防備なドライバーに攻撃を仕掛けるなよ……」
「当たり前でしょっ思わず抱きっ―――……! 手に力が入ったじゃないっ!」
プルプルとコブシを振るわせる。
不覚っなんて言っている。
「ははははは。ミューもあんなんだったぞ? 乗ったときから」
今日の半分もスピード出してないのにべったりだったな。
上機嫌にオレを見る山菜が、ハッと気づいたように手を叩く。
「ねっ織部」
「ん?」
「バイク頂戴」
満面の笑みだ。
「じゃ、オレ帰るわ」
ハンドルに手をかけてエンジンを回す。
「あー嘘っまてっこらっ」
「なんだよ」
オレは山菜を振り返って言葉を待つ。
一瞬、しまった、見たいな顔をして何かをしゃべりだそうとする。
言いにくそうにオレから視線を外して、言いよどむ。
珍しい山菜だ。
だからオレはせかすこともなく言葉を待った。
「―――また、乗せてね」
―――意外、だ。
そんなことを言いよどむ山菜にも、
「あぁ……もちろん」
そう答えた自分にも驚いた。
「……じゃ、じゃぁ!」
真っ赤になって家に駆け込んでいった山菜。
振るヘルメットのおかげでオレの顔は分からなかっただろうが。
呆気に取られてしばらくそこにとどまっていた。
―――夕日にそまった彼女を 綺麗だな と思った。
*Asumi...
―――っ!
織部なんかに―――っ!
部屋に駆け込んで思いっきりベッドにダイブしていた。
心拍数が異様に高いのは、走ってきたせいだ。
さっきまで身近で聞いたいたバイクの音が遠ざかっていく。
―――……。
切なくなってなーーーーーーーーーーーーーい!!!
なってない!
なってないから!!
ボフボフと枕を叩くが、一層に焦りを増すばかりだ。
落ち着けっ
落ち着け私っ。
おっけー?
私は真夜と織部派の人間よ?
バイクに乗りたいだけ。
そう決して織部をす―――……
す―――……
ストラーーーイク!!!!
ドスッと音を立てて枕にコブシが刺さる。
駄目だ!!
駄目だ駄目だっ!
よしっ考えるのをやめよう。
……そうだ、アレあけてみよう。
織部からもらった今日の戦利品。
あのお店の紙袋の中に小さく入った箱を取り出す。
紙袋は折りたたんで、とっておく。
オマケってのはどんな―――?
あけて、私は絶句した。
『こういうの選びなさいよ』
そう言って私が手に取った指輪。
耳が熱い。
なんで、あいつはホント、こういうことをするんだっっ。
指を測らせたのはそれも含めて。
侮りがたしタレ目っ!
馬鹿だあいつ。
こんなのがオマケにつくわけないじゃないっ。
混乱してる。
「っ!」
ペチンッ
にやけてる自分の顔を叩いて、ちょっと強すぎた後悔する。
大体、真夜がさっさと引っ付けば問題ないのよ。
それなのに演劇の練習がどうやらなにやら言っちゃってまったく。
大して興味もないならもっと突き離れればいい。
近すぎる。
私には入れない。
才能に溢れる二人。
これ以上、お似合いと言えるコンビは居ないと思う。
そんな高みに居る二人を、2年間見て。
本当に楽しそうに話す真夜を見て。
―――うらやましいと思ったこともあったかもしれない―――。
私が、真夜なら―――……?
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