16.訣別

*Mayo...

普通は……
普通は、どういったタイミングで切り出せばいいんだろう……。
さすがに美優やアスミには話さないといけない気がする。
今日を超えればあと3日で冬休みがくる。
そんな今年最後の日曜日という休みのこと。

///PROTOTYPE///

白い息を吐きながら日曜の朝を歩く。
日が燦々と降り注ぐ、ちょっと眠気の残った一日のスタート。
今日は美優達に誘われて買い物に行くことになっていた。
あたしが待ち合わせ場所に着く頃には二人が揃ってあたしを待っていた。
「あ。おはよ〜」
日曜の人込みの中からあたしを見つけて手を振る美優。
駅なんかで待ち合わせするんじゃなかったなぁ。
なんて思いながらその方向に人を掻き分けながら寄って行く。
「お待たせ」
「全くね」
「ちょっとは手加減してよアスミ。て、いうか、時間はピッタリよ」
駅の時計を指差してアスミに言う。
几帳面に何分前から来る二人と違ってあたしはギリギリで動く。
待ち合わせは何ていうか苦手だ。
「あははは。じゃ行こっか!」
笑う美優に促されあたし達は日曜の空の下を歩き出した。

今日はまず三人でお昼ご飯から食べようと言うことだった。
行き先のことはあたしは知らない。
今日はあたしの誕生日☆祭りらしい。
うれしくない訳は無い。
が、あたしの抱える問題のせいで、あたしはテンションを上げきれないでいた。
うう……い、いつ言おう……。
まぁ、あるよね。
ご飯食べながらさり気なく言おう。
そう思うことにして、陰りを振り切ることにした。

「ま〜よっ」
「え?」
「何辛気クサい顔してるのよ」
「いやー。これから何処に連れてかれて食べられるのかなぁって」
「真夜は食べ頃だからねっ」
「ふふ、それは着いてからのお楽しみ」
……ノリノリだ。
二人とも私の話にツッコむ素振りすら見せない。
逆に怖い。
特にアスミの舐めるような視線は背筋にブルッとくる。
……今日は、日差しが暖かい。
「で、どこいくの?」
改めて聞き直す。
「ラクティだよ」
「あ、こらっ」
思わず言ってしまったのだろう。
しまったと言う顔をしてアスミに謝っている。
対してあたしは行き先を聞いても分からないから適当に笑っているだけだけど。
「ラクティって何? 何処?」
「そこは秘密ね」
アスミが間髪いれずに質問に反応する。
「秘密〜」
それに乗じて美優も
そんないつもの会話をしながら向かっていると、意外と早く目的地についた。



くるくる。くるくる。
あたしはフォークにパスタの麺を巻き付けてパクッとたべる。
いい感じに纏められた暖かい空間で、気持ちいい。
アスミのオススメでこのお店になったみたいだ。
味も雰囲気も申し分ない。
「かわいいねっここ」
上機嫌に言う美優。
確かにお店の雰囲気はかわいい……というか、綺麗かな。
美優は丁寧に食べていてすごくこの空間に合う。
「そうだね……」
でも。
煮え切らないあたしのせいでイマイチ盛り上がらないでいた。
「どうしたのよ真夜。あんたらしくも無い。ましてや劇の役でもないわね」
訝しげにあたしを見てその元気の無さを指摘する。
スパッと言ってしまおう。
ズルズル引きずると二人に迷惑だろう。
「だ、大丈夫?気分悪い?」
「ん、大丈夫よ。ありがと。
二人に、言わないといけない事があってね……」
あたしは二人を見る。
小さく首を傾げる美優と何も変わらないアスミ。
意を決してあたしは言葉を紡ぐ。
「えっと、そんな黙って聞かれても困るんだけど……

 あたし、いっちーと付き合う事になったから……」


















「……と、止まらなくても」
『ええええええええ!!?』
二人の声がそろう。
周囲の視線を集めてしまった。
カラ笑いで机に張り付くように視線をよける。
「ちょっとっどういうこと!?」
小声でアスミが話を続ける。
「さっき言ったまんまよ。あたし、いっちーと付き合ってるの」
「ほ、ほんとっ? いっちーって水ノ上君だよね?」
「……そうよ。水ノ上優一」
「ふえぁ? ああっおめでとぉぉぉっ」
あたしの手を掴んでブンブン振り回す美優。
「ちょっとっ! 服につくからっ! あぁっ美優っ手にスパゲティが絡まってるっ」
美優はあたしを祝ってくれた。
ちょっと、安心。
んで、
「はぁぁ? 何言ってんのよあんたっ!?」
まだこっちが残っている。
「もうあんまり言わせないでよっ恥ずかしいんだから……」
「そうじゃないっっ―――っ」
アスミにしては珍しい剣幕でその言葉を否定する。
テーブルを挟んでいて美優の横に……
しかも奥側に座っていたはずのアスミがいつの間にか隣にわいてきていた。
ちなみに、やり取りはすべて小声で静粛に行われている。
あたしの肩を掴んで真剣な顔で呼び掛ける。

「あんたは―――…織部が好きじゃ無かったの?」

アスミの小声がさらに小さくなる。
またかぁ。
あたしはそんなにあいつを好んでいるように見えるのだろうか。
「別に。あたしとあいつはそんなんじゃないから」
ふるふる、頭を振る。
望んだ事は無いハズ。
一緒にいる事が多かった。
男友達のなかであたしに一番近い存在だった。
それだけの友達。

一緒にいるのは楽しいしムカツク。
ケンカは毎日してるし、あいつには何でも言える。
友達としてはスキだし、大キライでもある。

でもそこじゃない。
根はいい奴だ。
素行がわるいだけ。
だから美優にも手助けしあげてるし。
あたしとは関係のない所。
あたしが選んだのは水ノ上優一だ。
だから、もう、関係無い。

酷く驚いた顔であたしを見て
……何となく叩かれるのを覚悟した。
でも、予想外にも
「ひゃにふふほっ」
なにするのっとは言えない。
むにぃ〜っとホッペタをつまむ微笑むアスミ。
「なんて顔してるのよ。あんたが選んだんだから胸張って笑ってなさい。

 ……おめでとう真夜。頑張りなさいよ?」

……良かった。
安心した。
いつの間にか泣いてた。
不安から解き放たれたからだろうか。
涙が出る。
悲しいんじゃない。
純粋に嬉しかった。
「あー。泣かない泣かないっ」
「わ、わっほらっ真夜っ泣かないで〜っデザート食べようっ?」
祝ってくれる二人が泣くあたしをあやす。
よしよし〜とアスミに抱え込まれる。
「……まぁ、落ち着いたら言いなさい」
その言葉に頷いて、静かにあたしは泣いた。


二人の親友は、あたしを祝ってくれた。
美優は何度もおめでとうと言ってくれたし、アスミには何度もつつかれた。
……なんでつつかれたんだろう……。
ま、まぁそんな所は気にしない。
誕生日ケーキが2段だったり、イチゴが倍になったり色々倍に祝ってくれた。
……ありがた迷惑とは言わないにしても度は考えて欲しいかもしれない……。

―――そして今日の最後。
ほんとに最後のイベントが起きた。

「よぅ!」
―――……なんで、こいつがここに居るんだろう―――?
「な、なんであんたがこんな所にいるのよ?」
「たまたま―――とかいわねぇよ。山菜に言われてな」
「アスミに? あんたたちそんな仲良かったっけ?」
いつも皮肉をふっかけているか無言で遠ざかっていくアスミしか思い出せない。
「んなん見たとおりだ。それこそたまたまだっあ、ほら。誕生日プレゼント」
―――……っ覚えてた……。
あたしは忘れてるものだとずっと思っていた。
「……ありがと……」
差し出された紙袋を受け取る。
今のあたしに、受け取る資格はあったんだろうか……?
「……? どした? そんなに意外か?」
「……ほんとね。びっくりした」
「失礼なやつめ」


「あ、あたしね……っ!」
何故言えないのだろう。
「うん?」
普段はあまり見せない顔でシロユキは微笑む。
いつもそうだ。
笑うことはたくさんあっても微笑むなんて行動は見せない。
だから、余計迷った。
泣きそうになった。

「いっちーと……っ付き合うことになった……」

あたしは俯いて言った。
目頭が熱い。
「……そか。おめでとう」
呆気なく、白雪は言って笑った。
オマケにあたしの頭を撫でながら、頑張れとエールを送る。

なんで、あたしは―――!!

ボロボロと涙が零れる。
なんでっ!
なんで―――アスミや、美優に言った時とは違う涙が流れてるの……!?
「うぇ……っなんで―――」
両手で顔を覆う。
嗚咽が止まらない。
「真夜―――?」
シロユキがあたしに声をかける。
あたしはこみ上げてくる嗚咽のせいで答えることが出来ないでいる。

「真夜!!」

声が聞こえた。
その声には、驚いた。
シロユキじゃない。
「いっちー……?」
どこから聞こえたのかはいまいち不明。
あたしは声の主を探してあたりを見回す。
 ダンッ!!!!!
彼はいきなりロングコートを翻して、あたしの横に降り立った。
上……!?
「うははははっ激しいな水ノ上っ」
「大人しく階段なんて下りてられないよっ大丈夫真夜?」
見上げれば歩道橋。
と言うよりは目の前のホテルと道を挟んでいる駅を繋ぐための道が上にあるのだが……。
結構な高さがあるし、下はアスファルト。
「う、うん。むしろいっちーのが心配かも」
「……多少足が痛いかも。まぁ、気にしなくていいよ」
「あははははっはははっははは! お前すげぇよっ! 水ノ上っ最高!」
ツボにはまったのか、大爆笑だ。
確かに出来すぎたヒーローだ。
ピンチのとき(?)に現れる最強の存在。
「馬鹿にしてんの……? てか、何で真夜が泣いてたんだよっお前のせいかっ」
「さぁ……? 真夜に聞けよ」
「どう?」
「うん」
「オレのせいか!?」
「やっぱりかっ!!」
いっちーはシロユキに掴みかかる。
「待てよ! オレはただ良心に従ってお前らをエールを送っただけだぞ!?
 つか言ってみたかっただけだろ真夜っ」
投げ飛ばされる3秒前って感じだ。
「うん!」
「すっげぇ笑顔な!」
あたしに中指を向けた状態のまま、綺麗に一本投げを食らわされていた。

「おー……いて……もう知らん。オレは帰るっ」
腰をさすりながらバイクに乗るシロユキ。
いつものように、キーを回してエンジンを高々と2回響かせるとヘルメットを手にした。
「んじゃーな。ちゃんと送れよ水ノ上」
「わかってる。悪かったな」
「ま、気にするな。……根に持ってやるから」
「やめろよっ」
「うははは」
談笑をしてヘルメットをかぶる。
思い出すのはいつも乗っけてもらった感覚。

「じゃーな!」

それだけ言って去っていく。
蟠りの残った咽元。
また溢れ出しそうな涙を堪えて、手を振った。

さようなら、と。

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