18.Xデート

*Shiroyuki...
「暇だ……」
ライブはクリスマスイブで引き上げて、クリスマスはみんなそれぞれ用事があるようで。
「くっそー……みんなでハブりやがって……グレるぞっ」
サツキもソウジもタツミチも予定があるらしく一緒に遊ぶのを断られた。
寂しいクリスマスを一緒にエンジョイしようぜぇ! と誘ったのがいけなかったのか……?
誰かオレと遊んでくれねぇかな……。
ブーーンッブーーンッ
挙句には啓輔にも断られたしな。
『悪いな、今日は練習がある』
 ガチャッツーツー……
という呆気なさ。友達少ないぞオレ。
ブーーンッブーーンッ
あぁ……クリスマス真っ最中に家のソファーでテレビを見ているという情けなさに
神様も号泣だよきっと……ん?
携帯が鳴っているのにいまさら気づく。
すばやく手にとって相手を確認する。
番号は……知らない、か……。
「もしもし」
切れる前に素早く受話を押す。

『……え!? えっと〜あの〜織部くんでっ、あってますか?』

///PROTOTYPE///

ドキッとした。
電話の向こうからオレを呼ぶ女の人の声。
そしてオレのことを織部くんと呼ぶ誰かは、すぐに思いついた。
「ミュー? アレ……ミューって携帯持ってたっけ?」
『も、持ってないよ〜家の電話だよ』
「そうか。まぁいいや。ミュー一緒に遊んでくれよー暇でさー」
まぁ、んなこと言ってもそんなことのために電話してきたんじゃないんだろうが。
『えっ、うんっっ良いよ〜行く!』
「ははは冗だ……えええええ? いいのか!?」
なんだかノリで言ってしまったことにすんなりOKを出してくれた。
「大丈夫か? 山菜やら真夜とかと無いのか?」
予定があるのに無理に構ってもらおうとするほど阿呆ではない。
『うんっっ特に何にも無いから全然』
……マジか! コレは棚ボタか!?
「そ、そうかっなら―――」
今更ながら焦る。
……相手がミューだ。手荒なことは出来ない。
コレが真夜なら手加減は無いんだが。
どうしよう……何も思い浮かばないぞ……!!
「あー……っと、なら、とりあえず迎えに行くな」
『うんっわかった〜。じゃ、じゃぁっ私、公園まで出てるね〜?』
「おう、じゃ……」
『うんっそれじゃっまた後で』
プツッツーツーツー……

「は、はははっ」
やっちまった……
これってあれじゃね?
あの、

デート?

ツゥッとたれてきた鼻水をすすって携帯を放り投げる。
……………………マジですか!!!?
とりあえず鏡の前に走る。
やべぇ……! やべぇぞ!!
イケてない顔をひっぱたいて洗う。
ゴシゴシとタオルで拭いて鏡に向かってニヤッと笑う。

エロい。

うおおおっ! んなこと言ってもスタンダードだっての!
ジェルをもって軽く髪に通す。
どうせヘルメットで潰れるので大してつけない。
それでもいつもよりツンツン感を8倍増しで表現して鏡の前でニヤッと笑う。

キモい。

「な、何やってんのお兄ちゃん……?」
「うおっ!」
いつの間にかそんなオレを訝しげな目で見つめる詩姫が居た。
いや、なんていうかゴミを見るような目だ。
「な、なんでもないぞっ!? 意外なデートの約束とかしてないから!」
「そうなの? デートなんだ?」
「うおおっすべてブチまけたよオレ! い、いいか、別にそんな、ねぇ!!!」
「落ち着いてっキモいよお兄ちゃんっ!」
やっぱりか!
「ふぅぅぅーーー……落ち着いてみたぞ。今日もかわいいねマイシスター」
ついでにニヤッと笑う。
「全然落ち着いてないよっ! ってか更にキモイよお兄ちゃん!」
くっ……!
なんだか今のはグサッと刺さったぞいろいろ。
ガタガタと怯えながら言っている詩姫がオレの異常さを象徴している。
「どうしろってんだよ」
「とりあえずいつも通りで良いんじゃないのっ?
 だってお兄ちゃんそんな爽やかに笑っても似合わないし」
くっ……!
オレにはやっぱり水ノ上スマイルはマスターできないみたいだ。
……根本的な属性が違うしな。
「ちっ……わかったよ」
「うんうんっで、誰とデート? マヨねーちゃん?」
興味津々らしく後ろ手に姿勢を低くして上目遣いで聞いて来る。
「ちっげぇよ。そんならこんなに慌ててねぇ」
「へ〜? へへへっ」
「うわっ嫌な笑いだなてめっ」
「へへ〜? お兄ちゃんに彼女がね〜?」
このマセガキめ……。
「……彼女じゃねぇ」
「ふんふん。でも意外だな〜マヨねーちゃんに絶対気があると思ってたのに」
オレがかよ。
「は、冗談じゃねぇ。あいつは今他のやつと付き合ってるよ。」
「へ!? そうなんだ……なーんだ」
残念そうに頭を下げる。
―――だれが、あんなヤツと……。
「んじゃ、オレはクリスマスをエンジョイしに行ってくるぜ!」
「……いってらっしゃーい」
そういう詩姫を背にオレは玄関へ向かう。
ヘルメットとキーを持つと、家を出た。

オレが……真夜を好きだった―――?
いや、ありえねぇだろ……。



大通りの交差点。
一角が公園になっている、待ち合わせにはぴったりのスポットだ。
オレが着く頃にはすでにミューが公園の端にポツリと立っていた。
バイクに乗ったまま手を振るとパタパタとこちらへよって来る。
「お待たせー。悪いな寒いのに待たせた」
「うんんっ全然。今来たところだったから」
ニパッと笑顔を見せるミュー。
やっぱ可愛いな……。
今の会話とか普通のカップルみたいじゃん? すごくね?
「何処か行きたいところあるか?」
オレは普通を装ってミューに話しかける。
「う、うん!」
おぉありがたい。
実はノープランなのがバレなくて良かった。
「ほほぅ。どこに行く? どこでもお連れしましょう」
「えっと、これなんだけど〜……」
言ってオレに2枚の紙を渡す。
「ん、と……『エクスタシーランド』ってコレ優先チケット? すげぇな」
近年出来た遊園地でアトラクションや設備が充実していることで有名
エクスタシーと言う名前とは裏腹に普通の遊園地だと聞いた。
含みは無い。
優先チケットは優先窓口ですぐに園内に入れてもらえる優れものだ。
「うん。お父さんが株主だからそれでもらったんだって」
「株主……へぇ。いいのか?」
「うん。友達と行きなさいってもらっちゃったからっ」
嬉しそうにピョンピョン跳ねるミュー。
その姿を見るとオレも妙に嬉しい。
「ん、じゃぁ行きますかっ」
「うんっ」
後ろにミューを乗っけてオレはゆっくりと発進した。

世界一高い垂直落下アトラクション。
日本一の落差のジェットコースター。
肩書きはいろいろあれど、遊園地の目玉となるこの二つは特に人気で乗るのには大分苦労した。
「うはー。すごかったなあれ」
窓から見えるジェットコースターを見ながらしみじみという。
クリスマスのイルミネーションが綺麗に飾られていて、
カップル用のサービスにもたくさんあやかっている。
エクスタシーランドをナメてたよオレ。
「うん。面白かったね〜……ちょっと、怖かったけど」
「ははははははは! 何だよあのぐらいならバイクで耐性つけさせてやるぞ?」
「いやいやいや、い、いいよ〜」
プルプルと可愛く震えてオレの申し出を断る。
ちなみに今はカフェで一休みだ。
遊園地の敷地内のたくさんあるお店の一つで軽食を食べていた。
オレは昼飯を食べていなかったのでセットメニューを、
一方ミューはケーキを一つと紅茶で一息ついている。

「はーー。にしても寒いな。大丈夫かみゅー?」
連続して寒い感じのアトラクションに乗ったので
ミューを休ませるためにとりあえずカフェに入ってみたのだが。
「うん。ありがと〜。私は大丈夫だよ?」
「そか、とりあえず暖まるまではここにいようぜ」
「うん」
意外と大丈夫そうにしているのでオレは安心してサンドイッチにぱくつく。
遊園地内の食べ物は高い…と思っているとミューから優待券が出てくる。
ふむ。株か……。
不意に思い出す。
「ミュー。そいや、今日オレに電話してきたのって何の用事だ?」
一方的にオレの暇を押し付けてしまったので用件は聞いていない。
「え、でっ電話って…今日のだよね?」
「おう」
「あの、えっと…織部くんと同じことを言おうとしてただけだから、
 コレが用事と言えば用事になるんだけど……」
尻すぼみに小さくなるミューの声。
真っ赤になって縮こまっている。
一方のオレも何故か顔が真っ赤……だと思う。
えっと、つまりは俺が言わなくてもデートに誘ってくれたってことか。
「そ、そっか。ありがとな……」
「う、ううんっそんなっ私こそありがとうっ」
変な二人組みだ。
言葉を失ってミューから目を逸らして、外を眺める。
「……あ、そだ」
重要なことを思い出した。
「ん?」
「ミュー。オレは前名前で呼べって言ったと思うんだが」
「あ、え? 織部くんを?」
「そう」
「……し、しろゆき……くん?」
「そ、そんなに恥ずかしがるなってオレが恥ずかしいからっ
 普通に呼び捨てでいいって」
「シロくんとかじゃ駄目?」
くっ……!

「むしろおっけーだ!」

グッと親指をミューに突き出す。
何年ぶりだ普通のあだ名で呼ばれるのは。
あと、駄目? って言ったときの上目遣いに何かが持っていかれた。

「……うん! じゃぁ、シロくんって呼ぶね」

オレは幸せものかもしれません。
彼女の笑顔に密かにガッツポーズをしながらそう思った。


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