20.団欒
*Shiroyuki...

オレは美優を家まで送るとそのまま家に戻った。
期待していた間違いのようなことは起きそうで起きなかった。
…………残念だ……。
心底残念だ。
まぁ、楽しかったのでよしとしようか……。

///PROTOTYPE///

「うーっさっぶっっただいまー」
バイクに乗っていたせいで凍りかけた手を擦りながら家へと逃げ込む。
半端じゃない冷たさになった手は上手く動いてくれない。
「おかえり〜」
ひょっこりとリビングから顔を出す詩姫。
「おう。詩姫、戦利品だぞ〜」
お土産とも言うが。
クリスマスに大人しく留守番してくれていたんだからお土産は買って帰ろうと思っていた。
まぁ遊びに行くぐらい行っただろうがメシも一人なのは寂しいだろう。

ダダダダッ!!
「わーーいおみやだーーー!!!」
ガバッとお土産めがけて飛び掛ってくる―――母親。
「なぁぁぁぁぁ!?」
んだってぇぇぇぇぇ!!!!
ドスッッッとオレに体当たりをかましてついでに扉まで猪突猛進する。
「ぬはぁっ!!」
「しーちゃんっしーちゃんっお土産だって!!」
伸びてるオレの手からお土産袋をもぎ取ると詩姫に駆け寄る。
どっちが……こども……ぐふっ
薄れ行く意識の中であまりの理不尽さに一粒の涙を流した―――……。


「シロユキっシロユキっ! しろ〜しろしろしろしろ!!!」
「……ん……うっせぇ……」
チラチラと意識が戻ったり戻らなかったりする瀬戸際でオレの名前が連呼される。
眠気を跳ね除けて目を開けた。
「あ、起きたっ大丈夫? お兄ちゃん……」
目の前には同じ顔二つ。
ただ、幼さが違うだけ。
「づ……いて」
頭の後ろの方が痛い。
オレはソファーから起き上がるとここがリビングだと言うことを理解した。
テーブルの上にはオレの買ってきたお土産が展開されている。
「もーだらしなんだからあのぐらいで気を失っちゃうなんて〜」
「―――! そうだっ何してくれんだよっ! 危うくお花畑に召されるところだったろ!!」
正しくは天にだが。
当の母親はそっぽ向いて口笛なんぞ吹いている。
「もーママっちゃんと謝らないとだめだよっ」
詩姫が腰に手を当てて母さんを怒る。
うっとバツの悪そうな顔をして泣きそうになる母親。
何故。
「ごめんなさい……」
しゅーんとうなだれるでかい子供。
……親子逆転してない?
ある意味、いい反面教師だが。
「あ、お兄ちゃんっお土産ありがとっ遊園地行ってきたんだっ?」
いいな〜なんて言う姿はやっぱり子供。
「シロユキばっかりずるい〜」
こいつはこんなにも可愛いやつなのに、こっちのでかいのはムカつくばっかりだ。
「ずるくないっ! 母さんもハワイロケ行ってきたんだろ?」
つか、それなら今頃はハワイのはずなんだけど。
「そうそう!! 聞いて聞いてっ! すっぽかしちゃった!」
「なんだとぅ!!?」
仕事をすっぽかしたのか!?
「だってパパも居ないし、空港から電話したらしーちゃん一人だって言うし。
 マネージャーに体調悪くて飛行機に乗れなかったことにしてもらっちゃったっ♪」
ついでに「てへっ♪」とも言っているこの[ピー]歳にオレは呆れる。



オレの母親、織部深雪<おりべ みゆき>はモデルだ。
まだよくファッション誌の表紙で見かける。
……スラッとすごいこといってるが有名人なのだ。
歳はアレだとしても体が全然歳を取らない不思議な人だ。
確かに不思議っぽいオーラはたれ流れているが。
家に居ないことが多いが、何かにつけて微妙な時期に帰ってくる。
そしてよくベッドの中に潜り込んでくる。
子供かよ。
そして家事全般は詩姫に任せっぱなし。
子供かよ。
破天荒という性格というかむしろ……子供だな。

まぁ、性格こそアレだが、母親として頑張っていると思う。
俺たちの参観日は全部参加してた。
美人のお母さんだといつも言われていた。
ちゃんと誕生日や入学式には家に必ず帰ってくる。
必ずプレゼントを用意していた。
クリスマスだって今日みたいに―――。
―――子供がいて欲しい日には居てくれるのだ。
そういう所は、素直に嬉しかった。
親父にもここは少し見習って欲しい。

まいっか。そう話を括る。
だって、いつものことだ。
「……オヤジは? 今どこ?」
ふと気になったことを口にする。
「ん〜……たぶん北海道なんだけど……」
「多分って?」
「寒いから嫌だ。って言ってたから」
この夫婦は似たもの同士みたいだ。
「ふ〜ん? じゃぁパパ帰ってくるの?」
「ん〜どうだろ〜? 呼んだら出てくるかもよ?」
あはは〜なんて暢気に笑う。
「パパ〜!」
便乗して詩姫が呼ぶ。
でるわけ
「ただいまぁっ!!」
    ないだ……

ろ?


織部涼介<おりべ りょうすけ>オレ達の親父だ。
仕事はカメラマン。
言わずもがな、母さんとはそういう出会いだ。
図体がでかくガタイがいい、まさにオヤジという表現がオレの中ではぴったりだ。
熊みたいな体をしているくせに、寒がりだ。

「いやっただいま深雪っ白雪っ詩姫!」
颯爽とリビングに入ろうとしてゴンッと頭をドア枠でうつ。
身長190を超える図体は伊達じゃない。
廊下に蹲って震えるオヤジ。
「あっ、大丈夫パパ?」
「ふ、このぐらい何の―――っ」
詩姫に強がって立ち上がるが―――立った矢先頭を再び強打した。
今度は体半分リビングに沈む。
「あぁっ! パパっ!?」
マンガならでっかいタンコブがついてるんだろうな。
このナチュラルドジは見事詩姫に受け継がれているが、それはいい。
オヤジは母さんより家に居ない。
カメラマンとしては売れているらしいく、母さんとの仕事もよくあるようだ。

今日は珍しく家族全員が揃った。
嬉しそうに料理を作る詩姫と母さん。
料理を待ってオレはオヤジとテレビを見ながら待っている。
この瞬間、織部家は普通の家庭だ。


クリスマスケーキとたくさんの料理がテーブルをうめる。
オレは食べてきたため大して食えないが、ケーキの一角ぐらいは食っとこうと思いフォークを取る。
「ん?」
ふと気づくと後ろ手に満面の笑みで母さんがオレを見ている。
「んふ。ふふふふ。シロユキはコレ〜」
ばっとその手を前に持ってくる。
持っていたのは皿。その上には―――
「げっ!?」
チョコケーキ。
……チョコ、ケーキだとっっ!
「ばかっ食えるかっそのモンブランよこせっ」
「だぁ〜めっこれはあたしの〜」
ズンッとフォークを突き刺して自分のそばにキープする。
こ、このアマっ……!
「甘いの食えないの知ってんだろっ」
「知ってるよ? でもでも? シロユキってば一人で遊園地いっちゃうし?」
ママ寂しいなぁ〜? と悪戯に笑う。
「オヤジ、なんとかしろ」
「バカ野郎っ俺に止めれるかってのっ」
数あるケーキの中で唯一食えるケーキがアレ。
アレはウマイ。
「ええぃっ今頃言われてもどうしようもねぇだろ」
「えー? お土産話は? しーちゃんが言うにはデートみたいだし?」
くすっと艶やかに笑う。
手玉に取られてるみたいでくやしいぞ……。
「んな大したことしてねぇよ……うらっ」
一瞬の隙を突いてオレはモンブランをもぎ取る。
「あっ! あ〜〜っあ〜〜〜!! 取っちゃダメ〜〜〜!!!」
ばたばたと暴れる母さん。
「ふ、コレが運命なのさ……」
自分でも意味のわからない台詞を吐いてモンブランをかじる。

「……モブッ……っ!!」

口の中に広がる甘いチョコ。
オレは口を押さえて冷や汗を流しながら咀嚼する。
は―――嵌められた―――!?
「かかったわねシロユキ〜っ!!」
顔をあげると勝ち誇った表情の母さん。
じゃ、じゃあ今までのは全部―――!
「演技だったっていうのか……!?」
無駄に凝ったことしやがって……!!
眩暈のする吐き気を抑えながらその物体を飲み込む。
お、鬼だ……。
「も〜ママっ! そういうことはやっちゃダメって言ってるでしょ!」
詩姫はコーヒーを淹れてオレに渡す。
オレはそのブラックのコーヒーをがぶ飲みすると天井を仰ぐ。
た、助かった……。
「だって面白いじゃん? シロユキいっつもかわいくないし」
「そうじゃないよっ! お兄ちゃん甘いのホントにだめになってきてるんだから!」
詩姫はプンスカと母親を叱る。
今度は反省を見せないようで口笛を吹きながらソレをかわす。
そんな母さんにオレもなんか言ってやろうと口を開きかけたとき―――
オヤジが母さんの頭に手をのせてワシャワシャとなでる。

「深雪。可愛いのはわかるが、あんまいじめるなよっ」

あくまで子供を嗜めるように、笑顔でそう言う。
「……はぁい。シロユキ、ごめんね?」
その言葉に母さんはぷぅっと頬を膨らませて拗ねる。
だから、子供。
「あぁ……もう。いーよ。詩姫ありがとな」
「ううんっ」
いい母親になるよ? 詩姫は。
すでに料理は母さんよりレパートリーがあるし、気が利くししっかりしてる。
家事は全部こなすし、勉強はまぁそこそこだが。
「はぁ……絶っっ対、詩姫のがいい母親になるよ……」
「でしょ!?」
満面の笑みで同意する母さん。
つかあんたがいうなよ。
「深雪もいい母親だぞっ!?」
オヤジも負けじと母さんを推す。
ノロケかよ。
「うんっママはいいママだよ」
「ありがと〜っしーちゃん大好きっ」
ワシャーっと詩姫に抱きつき腕の中でぐりぐりもてあそぶ。
「でも、お兄ちゃんいじめちゃだめだよ?」
「…………はぁい……」
また膨れていた。

コレが織部家―――。
傍から見れば変なところが多いがコレが日常。
1年のうちたった数回だけ揃う家族。

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