22.運命
*Mido...
綺麗な顔立ちをした少年で、私を見つめる表情は一見無愛想。
だが次の瞬間には
「遅かったね、ねーちゃん! 早く帰ろう!」
ニコッと笑う少年。
「う、うん―――」
言って二人の男の間の私の手を取って歩きだす。
連れ出された私を見て二人の男は舌打ちをして去っていった。
誰だろうこの少年は……?
///PROTOTYPE///
「あの……」
私は少年に声をかける。
少年は再び無愛想な顔を私に向けると思い出したように手を離した。
そしておもむろにポケットに手を入れるとポケットから何かを取り出した。
「はい。コレ、この間落としてました」
それは―――MD。
私が無くしたと思っていた、織部君からのMDのコピー。
私の作った最後の曲。
織部君が最高だと言った歌詞。
主人のいないナナシの曲―――。
歌い手はオレじゃないと、彼は言っていた。
その彼が歌が完成するかも知れないといっていた。
彼の音楽センスは偽物じゃない。
―――本物の天才。
彼が認めたなら…………。
この子、が……?
男の子は何も言わない私に首を傾げる。
「……もしかしてさっきのおにーさんたち友達でした?」
ちょっと困った顔を私に向ける。
その顔がわかっていてあの演技をしたんだと物語っている。
さ、最近の子ってこんなませてるのかな……。
「あ、ううん。違うけど……ありがと」
私はそのMDを受け取る。
「それじゃ」
「あ―――」
少年はあっけなく私に背を向けて走り出す。
「まって!」
私は思わず叫んでいた。
タンタンッと軽く響いていた足音が止まる。
少年は振り向くと私の元へとまた戻ってきた。
「何ですか?」
礼儀正しく聞き返す。
その瞳はやはり純粋で真っ直ぐ私を捉えていた。
「……このMD、聞いたん?」
「……ごめんなさい」
怒られると思ったのかその子は頭を下げる。
おーやっぱり子供なのか……。
「違うよ。怒っとるんじゃないの」
再び男の子は顔を上げる。
少し翳った顔で私を見上げる。
私はその子の視線に背を合わせてしゃがむ。
「―――どう、だった? この歌。チョットだけ感想が聞きたいだけじゃけぇ」
私はそう聞いた。
男の子は少し困ったような顔をしてチョット考えてから口を開いた。
「……わかんないです」
「そう……ゴメンねーへんなこと聞いて」
「……題名もわかんなくて、友達に聞いても知らなかったから……」
ソレは当たり前。
この曲を知っているのは私と織部君だけ。
「この曲は、私の知り合いが作った曲でねぇ。それで名前もないんよ」
男の子は驚いたような顔をして私を見た。
眼を合わせた私から一度視線を下に背けると、もう一度私に向き直った。
「でも―――僕はいい曲だと思います」
真っ直ぐな瞳とその声が私を駆け抜けた。
男の子は丁寧に頭を下げると私の前から走り去った。
「あ―――」
って。と言う頃にはもう声の届かないところへ。
手元にはMD。
とそのMDの違和感に気づく。
私はケースはしていなかったはずだ。
だが私の手元に帰ってきたMDには、青いケース。
きっと、彼のものだろう。
私はそれをカバンに仕舞うと、帰途につくことにした。
*Shiroyuki...
「あーーーーーーーーーーーー!! この間の子だーー!!」
オレの隣で、大声を上げる妹。
まったく、こいつといい水ノ上といい。
恥を知れ……恥を……。
―――時間は数時間前。
大晦日となり今年もあと少しだ。
クリスマス後に速攻で仕事終わらせてくるからと家を出た両親は、
明日に家にかえって来るそうだ。
今年はもう帰ってこれないみたいだが、
ソレは仕方が無いことだと知っているし、
オレも詩姫もその言葉に頷いて今年最後の日を迎えた。
どうせならと、オレは詩姫と夜になって除夜の鐘を突きにと出かけることにした。
が、オレたちが寺に着いたときにはもう何人もの人が並んでいて、
鐘を突くことは出来なさそうだった。
「……無理だろ……コレ絶対108人以上居るって」
「う、うん……多分いるね」
階段に並ぶたくさんの人。
更に階段の下の開けた場所で屋台が開かれていて、祭りのようになっている。
そこを歩いているだけで楽しめそうなのでまぁいいか、とオレたちは歩く。
響く祭りの雑音雑踏。
「……りーーーーー……」
誰かの叫ぶ声。
「おーーーーーーーーーりーーーーーーーーべーーーーーーーーーー!」
空耳か、オレたちの苗字が祭りの中を―――
「おい! 織部!!!!」
その発信源をオレは目視する。
―――水ノ上。
階段の中腹あたりから手を振る。
恥ずかしいったらありゃしない。
当の本人は何を気にするでもなくオレに手を振り続ける。
無視だ無視。
オレはパッと踵を返す。
「無視するなーーーーーー!!
茶髪ーーーーーーーーそこの柄悪いろりこーーーーーーーーーん!!!」
……!!!
詩姫はぴったりとオレにくっついてきている。
周りの視線には気づかず俺を見上げて「行かないの?」と首を傾げる。
嫌な視線がオレに集まる。
あの人ってロリコン? ロリコン?
そんな視線。
オレは現況を沈静化すべく、その声の主の元へと向かった。
ダッシュで。
そして、そいつはそこにいた。
「げっ……」
そいつはオレたちを見るなりそんな声を上げる。
「あーーーーーーーーーーーー!! この間の子だーー!!」
詩姫がその声を押さえ込んで思いっきり指差しながら叫ぶ。
そいつはあわてたように周りを見回すと詩姫に向かって口の前で指を立てた。
静かにしろと。
その気持ちはよくわかる。
「水ノ上、こいつ……」
「あれ、知ってるの? 俺の弟だけど。リョウジって言うんだ」
よろしくな〜とそのリョウジという弟の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
少し迷惑そうな眼を兄に向けるが素直にソレに従った。
「……水ノ上涼二<みずのうえ りょうじ>です……」
礼儀正しく頭を下げる水ノ上Jr。
「チョットませてて生意気だけど、最強の弟だぞ」
嬉しそうにオレに親指をグッと立てる。
オレはそいつにジーっと視線を送るとそいつは訝しげに睨み返してきた。
ほぅ。
面白いなこいつ。
オレを睨み返すガキは今までいなかった。
よく見ると水ノ上に似ていて綺麗な顔立ちをしている。
あぁ。あの時誰かに似てると思ったのは―――こいつか。
不意に隣にいた詩姫がいないことに気づく。
「ねぇっ! リョウジ君?」
詩姫は興味津々に水ノ上の弟に近づく。
「何? ……えっと、」
ジリジリにじり寄る詩姫に多少警戒しながら聞き返す。
「あたしはシキっ! 織部詩姫<おりべ しき>だよ!」
「えっと、織部さん? で、何?」
「シキでいいよ〜っ!」
やけに友好的な詩姫にびっくりだ。
2段空いていた階段の差が1段づつ詰まって行く。
「……わかった。僕もリョウジでいいよ」
「ねぇねぇっリョウジっこの間歌ってた歌ってなんていうの?」
あぁ……目的はそれね。
歌に目のない妹はリョウジと同じ段に立った。
「え、あ、知らない。この間その曲のMDをお姉さんに返したけど名前は無いんだって」
少し考えて申し訳なさそうにそういった。
「おい、その人方便使わなかったか。なんとかじゃけぇ……みたな」
ちょっと男気がはみ出る言葉遣いだな。
「はい、そうですけど。知ってるんですか?」
子供にしては出来すぎてる感じの言葉遣いでオレに返す。
「……あぁ」
まぁ、間違いなく先生だろう。
「にしても、水ノ上。こいつできすぎじゃない?」
こう、詩姫と比べると出来のよさが……。
生活面では負けてないと思うが優等生としては全敗だなきっと。
「ははは。よくやってるだろ?」
さすが水ノ上クオリティー。
弟も完璧、か。
「それって、先生かな?」
詩姫がオレに聞く。
この辺で標準語に染まることなく広島弁を保ち続けてる人はあの人ぐらいしか知らない。
「だろうな」
「……先生?」
涼二は知らないから当然そう聞く。
「うんっあたしたちの歌の先生っ」
「あーそっか。だから僕を塾に来ないかって誘ってくるんだ」
一人でうんうん納得する涼二。
……というか、先生と会ったのか、こいつ。
「結構……待ち伏せされてるみたいでいっつも会うよ」
そんなそいつに多少のジェラシーを感じつつ、聞いてみる。
「なぁ、涼二」
そいつは表情を変えないで俺を見上げる。
「はい?」
あの歌の完成に。
もしかしたら、こいつの『声』が―――。
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