27.啓輔
*NoMaster...


アスミ 「ああっ! 抜ける!」
シロユキ「おら!! とっとといっちまえっ!!」
マヨ  「あーーっ!! すごい!! いいよっそのまま!!」
ミユ  「ああっ速いよっすごぉい!」
マヨ  「そのままいっちゃうのぉ!?」
ユウイチ「あっしまるっなかから抜けない!!」
アスミ 「外に……!!」




全   『いっけぇぇえぇええええ!!』


///PROTOTYPE///

*Shiroyuki...


ハイ。ここは日曜日のサーキット。


「ゴーーーーーール!!!!」
大歓声と共にチェッカーフラッグが大きく振られる。
カートのスキール音が大きく響き渡り、
その先頭を走るカートのドライバーは最後に大きく手を挙げた。
「っっしゃああああ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!! すごい! 啓ちゃんトップだよ!!!」
大いに盛り上がっている。
会場からも大喝采だ最後のコーナーで魅せられた観客たちが立ち上がって歓声を送る。
真剣勝負に熱くなっている友達を前に高まっていた。
オレ達はウィニングラップを回っている啓輔に手を振る。
あいつがこんなに熱いことをしてくれるヤツだとは思ってなかった。


「はっはっは!! いいねぇ! お陰で年甲斐もなく熱くなっちまった!」
レーシングチームオーナーはオレたちに言う。
「そりゃよかった。最近オーナー冷めてたからな」
啓輔はスポーツドリンクを飲みながらいつものように不敵に笑う。
カートを降りたときと表彰台のときは見たことないぐらい楽しそうに笑っていた。
コレがこいつの舞台なんだろう。
正直すげぇと思うぞ。



事の発端はおとといの金曜の話だ。
いつものようにオレと水ノ上と啓輔3人でメシを食べていたときに気づいた。
啓輔のレースを見に行っていない。
「ところで啓輔」
「む。何だ?」
「噂のレースはいつだ?」
「明後日だ……って、俺レースの話したっけ?」
「してない」
明後日か……なかなか急だな。
「高井、レースに出るのか? 何の?」
水ノ上が真剣に驚いている。
啓輔は自分のことは話さないタイプなので謎が多いのだ。
「……カートだけど」
まぁ、聞けば答えるのだが。
「すげっ! 明後日だっけ、見に行っていい?」
すごい食いつきだな水ノ上。
あぁ、そうか。勝負事だからか。
「……好きにどーぞ」
……

と。
とりあえず誘えるだけ誘って応援に行こうという話になり、現在に至る。
会場がよく分からなかったのだが、このオーナーのおっさんが全員を連れてきてくれた。
太っ腹だ。本当に。見た目も。
この後の祝勝会までお邪魔することになった。



「啓輔の優勝を祝って……」

『カンパーーーーーーーーーーーーーイ!!!!』
甲高く響くグラスのぶつかり合う音。
祝勝会は盛大に始まった。
音頭を取ったのがオレなのが謎なところだが。
「それにしても意外尽くしだよ。高井ってトップクラスのレーサーだったんだな」
水ノ上が本日何度目かの感嘆の溜息をつく。
実際俺もはじめて知ったため驚きを隠せないが
動揺しているのを悟られるのが嫌なため何も言ってない。
……くっ!
隠してるなんてカッコいいじゃねぇか……!
「まぁ、たまたま。それよりも3人のレースクィーンのが驚きだったけど」
水ノ上の言葉を軽く流すと、山菜へと話題を移した。
今日なぜかレースクィーンの衣装で登場した3人。
アレはやばかった。いろいろ。
「すっごい写真撮られてたな。大丈夫だったか?」
いろんな意味を含めてオレは聞いてみる。
「写真撮られるのって、緊張するね〜?」
いつものように間延びして素直すぎる感想を返してくるミュー。
「お金もらえたからいいんじゃない?」
クレバーな山菜。
マイペース万歳だな……さすがだ。
「……そういう問題?」
この二人に対して一般的な観点で突っ込む真夜。
すばらしいアンバランス。
ジェンガのがまだバランス取れてるよ。
「ごめんなさいね〜? この人誰でも誘っちゃうみたいで」
そう言って話しに入ってきたのがオーナーと呼ばれたオジサンの奥さん。
セレブ感が漂っていて、こういった場所にいることが納得できる。

カートって言うのはとにかく金がかかるらしい。
啓輔が言う分にはこの二人に見込んでもらってやらせてもらっているらしいが。
……すげぇな……。
この啓輔のいるチームには3人のドライバーがいて、
もう一人が3位更にもう一人が4位だそうだ。
最強といわれるレーシングチームのトップドライバーという看板を背負っていたわけだ。
―――すっげ。
オレにはそういう背負うものなんて無い。
実力を見て評価される世界は知っている。
才能と努力があるもののみが更なる高みを目指す権利がある世界。
自分の背負ってるものなんて何も無くてただこの身一つで掴み取る栄光。
やっていることは同じ。
ただ、ものの重さが違う。
日々何にも興味なさそうな顔してやがるくせに一途に目指してやがった。
ほんと―――曲者ぞろいだ。


「いーじゃねぇか。減るもんじゃねぇしよぅ。お嬢ちゃんたち、いつでもバイトきてくれよなっ!」
オーナーは豪快に笑いながら言う。
キャンギャルなんぞいつでもやるもんじゃないだろう……。
「あはは……」
「そうさせてもらいます」
「はは……」
笑顔ではっきりと言い切ったのは山菜だけだった。
まぁ今の3人の格好は目の毒だ。
まずミューだ。
何がって言うとサイズが足りないとか言っていたがジャケットに胸が入りきっていない。
ジャケットは羽織っているだけになっており、より胸が強調される。
もう谷間がむっちり……。
男としてそこに目が行かないわけない。
こう、オレの漢センサーが反応しそうだ。
頑張って目を逸らせば山菜。
抜群のプロポーションを見せる彼女は目のやり場に困る。
なんか、見えてる部分がいちいち綺麗で本当に雑誌のグラビアから抜け出てきたような感じ。
正直現在のオレの思考ではエロい以外の何者でもない。
……! いかん! 目を覚ませオレ!!
そして真夜。
逸らした先で目が合ってしまった……。
オレの視線に気づきすっと視線を逸らす。
席が離れているため声をかけづらい。
が、なんとなく彼女に見入ってしまう。
その間モジモジと恥ずかしそうにポーズを動かすがそれが逆に……
―――ふむ。
悪くない……な。
「悪いね」

不意の声にドキッと心臓が跳ねる。
水ノ上が微妙な笑顔でオレを見ていた。
―――少し殺意が混じっている。
顔から『死なすよ?』を滲み出させるのはやめて欲しい……。

わかったよ。
オレは水ノ上に笑いかける。
そして大人しくミューの胸に視線を戻した―――。



「ふぅ……興奮で鼻血がでそ」
オレはなんとなく上を向く。
「動機不純な興奮だがな」
啓輔はそんなオレに冷たい視線を投げかける。
「んなこと言ったってあのボリュームに視線がいかねぇわけねぇだろ」
人が殺せるぜありゃ。
「オマッ……オマエなぁ、節度をたもてちょっとぐらいは」
自分で言うのもなんだが凝視してたしなぁ。
ちなみに現在はトイレ。
この後外に集合して帰るだけだ。
「保ってるじゃねぇか。襲ってないだけましだ」
「ソレは最低だろ……」
「んなこと言うなって。啓輔だってグッときたろ今日は。レースにもやる気が出るってもんだ」
「―――それは否定できないな」
「だろ?」
無表情で二人向き合う。

『ッッハハハハハハ!!』

刹那の爆笑。
「にしてもやるじゃんっ優勝? ばっかじゃねぇの?」
「当たり前だ阿呆。最強を背負うなら当然だ。オマエだっていつもソレを目指してるんだろ?」
「歌に最強なんて定義はねぇよ。アレは競争じゃないからな」
オレは蛇口に手をやってワシャワシャと手を洗う。
送風乾燥機に手を突っ込んで勢いのいい風からゆっくりと手を引き抜く。
オレに続いて啓輔も同じ行程を繰り返してトイレから出た。
日は落ちきって吐く息は白い。
―――空には満月。
ソレを見上げてフッと笑った。
「イチバンってのを目指すのはオレより水ノ上のが向いてる」
寒い寒いとポケットに手を突っ込む。
「まぁそうだろうな。優一はある意味闘争心の塊だからな」
敵に回したくねぇな、と啓輔は笑う。
オレたちに気づいたのかバスがライトをつけてエンジン音を上げる。

―――帰りのバス。
なんとなくサーキットを名残惜しんでスタジアムを振り返った。
黒いシルエットだけが静かにたたずんで、昼の熱狂が夢のようにも思える。
―――ライブ後の会場もこんな感じだ。
感傷に浸るのをやめてバスを振り返る。
帰ろう。




「……オイ、白雪」
バスまでの道のりで小さく啓輔が話しかけてくる。
「ん?」
啓輔はオレに視線を合わせず、バスへとゆっくり歩いている。
二人バスに照らされながら近づく。
「オマエは、誰を選ぶ?」
啓輔の視線はバスの中を向いていた。
「―――は?」
啓輔の言葉の意図するものを読み取れずに間抜けな返事を返す。
それに啓輔は苦笑すると、ダメだなこりゃ、なんてつぶやいて
「なんでもねぇよ」
と、バスに乗り込んだ。

少しだけ外に立ちすくんでオレもバスに乗り込んだ。

前へ 次へ

Powered by NINJA TOOLS

/ メール