32.キッカケ

*Mayo...

アスミがシロユキと付き合いだして数ヶ月。
もうすでにあの二人をはやし立てるような声は聞こえなくなって、
二人もどんどん親密になっているようだ。



正直、非っっっっ常に不愉快っっっ!!!

(暴走中)
なんでアスミなんて美人な綺麗なお姉さんは好きですか的な
全国的アジア的美人さんだよアスミって子が!!
あんなわけも分からないタレ目(こだわり)の柄の悪い音楽馬鹿に
玩ばれなきゃならないのさあの変態めっっ!!
ああああっあのロリコンいい加減捕まってしまえばいいのに!
詩姫ちゃんはあたしが全力で面倒見るしっむしろ歓迎!!!

「るせーーーーっ!! そういう思考は口に出すなマヨネーズ!」

ゴッ!

シロユキにいい感じに頭が殴られる。
後頭部にグーだ。
「いーーたーーいーーっ!! 何すんのよバカーーっ!!」
容赦なく殴りやがってこの不良めっ!
「誰がロリコンだこのスカポンタンがっ! お前のような奴に詩姫がやれるかっ!!」
「あはは織部、頑固オヤジ風になってる」
冷静ないっちーからツッコミが入る。
「オレがオヤジ代わりだからなっ! 詩姫はオレの世話がかりなんだよっ!」
ばばーんっと自分を指差すが甲斐性なし。
「ダメじゃんっ!! 可哀想っ!」

「甲斐性が無いのはデフォルトだものね?」

「ぐほぁっ!?」
アスミの痛恨の一撃!
シロユキは悶えている。
「アスミ……あんた仮にも彼女でしょうが」
その、庇おうよ、ちょっとぐらい。
可哀想になるぐらい追い討ちだった。
「いいの。シロユキには丁度いいぐらいでしょ?」
彼女はそういって前よりも綺麗になった笑顔を見せた―――。



今日はダブルデートな日曜日―――。




VOX///PROTOTYPE///




ショッピングモールは賑わっていて人がゴミゴミしてる。
「ふははは! ゴミが人のようだ!」
「逆っそれ逆だからっ!」
ふはははと謎に高笑いするシロユキにツッコむ。
こいつといると無駄にこいつと絡むのはこいつが喋りすぎるからだと思う。
「まぁ休日に行くって言ったらここしかないしね。行きましょうか。
 あ、真夜。アレ買わないと」
つんつんと私の肩が突かれる。
「ん……? あ、ああっうん。でも何買う?」
「私はもう決まってるわ」
「あーっずるーい」
「何の話?」
あたし等の言動を聞いていっちーとシロユキが首を傾げる。

「うん。ミューが誕生日でね。プレゼント買ってあげないとっ」



と、言うわけで、あたしらは買い物を始める。
一番最初にシロユキが突っ込んでいったのはおもちゃ屋。
……この歳でオモチャというのもどうだろう……。
「こんなのどーよ!!?」
シロユキが一つ箱を持ってくる。
アスミがその箱を受け取ってあける。
ビヨーーーーーンッ!!
「きゃ!?」
―――!? す、すごいのが飛び出した!
思わずアスミも手を離してその箱を落としてしまう。
「うはははっははははっ!」
「こ、こらっ! こんなの渡したらミュー死んじゃうでしょ!?」
ちなみに、箱から飛び出したのは今とても流行っているホラー映画のキャラクターだ。
アメリカらしいリアル志向の『手』だ。
何が気持ち悪いかというとウネウネ動いているところ。
「はははっちぇー面白いのになー」
そう言って箱を回収して元の位置に戻す。
「織部おりべー」
「あん?」
「ほれっ!」
いっちーが何かをシロユキに向かって投げた。
「うおおお!!!?」
流石のシロユキもそれを避ける。
「大丈夫だってーオモチャだしさっ」
「ば、馬鹿っいきなり来りゃぁんなもんびびるに決まってんだろ!」
「あはははははっ」
そんなシロユキに満足したのかいっちーは
そのぶよぶよしたリアルっぽい蛇をオモチャのかごに戻す。
「男の子ってなんでそういうの好きかな〜……」
「わかんない……」
おもちゃ屋で目を光らせる子供のような二人を
店員さんに怒られる前に引っ張り出して次のお店へと向かった。



「んー……あ」
シロユキがいっちーの顔を見て何かを思い出したように手を叩く。
「どうした織部?」
当然それにはいっちーが答えた。
「あぁそういえば詩姫がさ、今日は暇だなーって伸びてたと思って」
……? なんでそれがいっちーと……?
いっちーは少し考えるように言葉を出す。
「うーん。そう言えばウチの弟もサッカーの相手しろって煩かったなぁ……
 用事があるって置いてきたけど」

男二人が目を合わせてニヤリと笑った。










*Ryoji...

暇って言うのは有効に使え。
そう父さんと兄ちゃんから言われて育ってきた。
だから、暇って奴があれば僕は勉強か運動をする。
と、言うわけで今日は勉強だ。
大人しく机に向かって教材を黙々とこなしていく。
日曜日は塾もサッカーも無い。僕にある唯一の休日。
友達の家によく遊びに行くんだけど、今週はみんな用事があるみたいで……。
でもやることもなく下らないテレビを見ているよりはいいかな。
っていうか、兄ちゃんめ……先週サッカーの相手してくれるって言ったじゃん……。
ちぇー……今日は絶対抜いてやる自信があったのに。
今日は立ち読みで得た必殺技を試すいい機会だったのに。
なんて余計なことを考えながら鉛筆を走らせる。
すると、階段の方から母さんが上がってくる足音がした。
コンコンッとノックがあって返事をするとドアが開いた。
「涼ちゃーん? 優ちゃんからお電話よ?」
「兄ちゃんから?」
母さんから子機を受け取ると僕は保留を切って電話に出た。
「もしもし?」
『おう。涼二? 今暇か?』
「暇じゃない」
『怒るなよー今から行って欲しいところがあるんだけどさ』
「……何処に? 買い物行ってるんだから欲しいものぐらい自分で買ってきなよ?」
『わかってるよそんぐらいっまぁ今日相手できなかったろ?
 そのお詫びに遊び相手を用意したぞ』
「……あぁそう……無理矢理遊ぶこともないと思うけど?」
『そう言うなって! あ、ヤバイ携帯の充電切れるっ! 30分後に海岸の西側』
プツ……! ツーツーツー……

「……は?」








*Shiki...

「ん〜ふ〜〜ふ〜ふふ〜ふ〜♪」
あれ?
「ん〜ふ〜〜ふ〜〜ふふふ〜♪……」
こんな感じのほうがいいのかな……?
只今音符の群れに向かって格闘中。
部屋にセットしてあるピアノに向かって適当に作曲中だ。
ピアノは御堂先生が教えてくれて、暇があると作曲してみるといいと簡単な作曲の仕方を習った。
まぁやり方なんで気にしないで思いついた曲を弾けるようになることが一番大事なんだって言ってた。
今まで作った部分の曲を弾いてみる。
ポロン♪ ポロン♪
…………
ダーーーーーンッ!!

鍵盤を一気に押すとこういうショックな音が出る。
「あ〜だめだ〜全然お兄ちゃんみたく作れない〜……」
悔しいけどあのタレ目でムカつく茶髪は歌詞を作るとそれにあわせて曲を作る。
それがとても上手い。
右手の人差し指でポンポンと白い鍵盤を弾くが甲高い音が鳴るだけで曲になる事は無い。

プルルルル……プルルルル……

遠くで小さく電話の音が聞こえた。
「わっわっ! はいはい〜っ」
アタシは走って部屋を出て電話へと向かう。
リビングのドアを開け切る前に走り出し、ドアで頭を打って軽く悶えると電話に出た。
「ぅもしもし……」
『おー居たか。どした? 頭でも打ったか?』
「そ、そんなに頭打ったりしないよっ!」
打ったけど! ちょっと嘘で虚勢を張る。
『はははっ詩姫がコケないほうが珍しいからな。
 まぁそんなことはおいといて、だ。詩姫、今日暇?』
「や、やることがあるよ一応っ」
大いなるチャレンジの真っ最中だ。
……行き詰ってるけど……。
『あぁんならいいか。涼二と一緒に遊べるチャンスだったんだが』
な、なんで涼二がっ!?
「い、今は暇だよ!?」
ど、どんな切り返しだよアタシ!
『あれ? やることがあるんじゃねぇの?
 「アンタ早く教えてあげなさいよっ」うっせぇな今楽しいとこなんだよっ
電話の向こうから何か聞こえるが電話から離れているんだろうか、
声が小さくて聞こえない。
「なに?」
『何でもねぇよっんじゃ、海岸の西側に居るってよっじゃなっ!』
「え、あっちょっとっ!」
ツーツーツー……

じゅ、準備しなきゃ……!?
えっと、とりあえず服っ!? わわっ髪もっ梳かないとっっ!?
自分の部屋と洗面台、逆方向にあるそれに向かって走り出す。
ガンッッ!
「あうっっ!」
あけかけたドアに縦に突っ込む。
また少しそこにうずくまってまた走り出した。


前へ 次へ

Powered by NINJA TOOLS

/ メール