33.運命の約束


*Shiroyuki...

「くふふふふ……」
「シロユキ? 不気味な笑いが止まってないわよ?」
アスミに注意されるがどうしてもその面白さに口が笑う。
「だって詩姫だぜ? 今頃走り回ってコケまくって家の中で息切れしてんだぜ?」
「……ねぇ真夜、織部ってシスコン?」
「うん」
リンゴが落ちるかのごとく本当に当たり前のように頷く真夜。
「真顔で言うなよ! シスコンじゃねぇし!」
「妹を苛めて喜ぶなんて最低ー」
そこに水ノ上がチャチャ入れにくる。
「ぐおー! お前こそブラコンじゃねぇかっ!」
「あぁ。そうだけど?」
何か? と弟自慢のクソ兄貴がニヤニヤとオレを見る。
「涼二君よくできてるもんねー。シロユキより頭良いし」
真夜がププッと頬を膨らませてオレを見て言う。
「うっせーーーっ! 詩姫だってっ詩姫だってっ……
 た、大して頭は良くないが気は利くし歌は上手いぞッ」
言ってちょっとポッと赤くなってみる。
シスコンじゃね? オレシスコンやってね?
「はいはい。お兄ちゃんお兄ちゃん」
言って水ノ上に肩を叩かれる。
「うぜーーーーーーーーーー!!!」

ショッピングモールにオレの叫びが響いた。




*Ryoji...

―――やられた。
どうしろっていうんだ。
僕がその場所に着いたときには、その『遊び相手』が待っていた。
「―――っ涼二っ!」
その子は手を挙げて僕に走り寄ってくる。
「詩姫……」
「こんにちわっごめんねお兄ちゃんのわがままで」
「シロ兄……?」
あーなんだか良くない。良くない陰謀を感じる……。
そんな僕に彼女はハテナ? と首を傾げる。
いつも通りと言えばそうなのだが、レッスン教室以外で会うのは初めてで妙に可愛い。
「ん。まぁいいや……今日大丈夫だった?」
「うん?」
「いや、塾とか用事とか」
「うんっ大丈夫っ」
「そっか。とりあえずウチ行こっか」
外で遊ぶにはまだまだ寒い季節。
あんまりウチに友達を招待することはなかったが、女の子の家に行くのも恥ずかしいし。
「うんっ」
彼女は元気よく頷いて僕に続いて歩き出した。



「ただいまー」
「おじゃましますっ!」
僕は詩姫を暖かいリビング案内し―――ようとして気付いた。
「……あ、母さんが居たんだった……」
良くない。良くない……!
「?」
速攻で切り返すと二階の自分の部屋へ案内することにする。
「こっちっ」
「う、うん……?」
部屋の暖房をつけて詩姫にクッションを勧めて座る。
「涼二の部屋?」
「そそ。まぁ何もないけどゆっくりしてってよ。
 あ、なんか飲み物持ってくる」
「あっありがとー」
踏みなれた階段を下りてキッチンに向かう。
「涼ちゃん? あれ? 遊びに行ったんじゃないの?」
「んー迎えに行っただけー」
「あ、来てるんだ? みつや君とか?」
「違うよーねぇジュース持ってくよ? お菓子なんかある?」
「あ、うん。お菓子は棚の所にクッキー缶があるから持って行っていいわよ〜」
「わかった〜」
「ねぇ? 女の子?」
ニヤニヤとリビングで笑いながらこちらを見る母さん。
「……どっちでもいいじゃん」
「あっあっ! 女の子なんだ!? いいな〜つれてきてよぅ」
「嫌だっ詩姫が夜道を歩けなくなるだろっ」
「酷いっ!? 母親を変態扱いしないでよ〜」
「事実だろっいい加減ミヤコを拉致するのもやめろよなっ」
「ふふっあの子はいいのっ親の公認よ?」
「なお悪いわっ! ったく……」
僕はそんな変態(親)を無視してジュースとお菓子を持って階段を上る。
「よっと……詩姫ー飲み物持ってきたよ」
「あ、うんっありがと……あれ? 涼二のお母さんですか?」
「え゛!?」
僕は後ろを振り返る。
「そう涼二の母です〜あなたが詩姫ちゃん?」
「あ、はじめましてっ織部詩姫っていいます」
「うんっゆっくりしていって〜」
「はいっありがとう御座います」
「……いいからもう降りろよ母さん……」
「ひどいな〜私は構ってくれないのね涼ちゃんっ」
「構ってくれない」
「ひどいっ」
「あはははっ」
僕と母さんのやり取りを見て詩姫が笑う。
「ほら〜とっとと行くっ」
「う〜分かったわよ〜んじゃ詩姫ちゃんっゆっくりしていってね」
「はいっありがとう御座いますっ」
「〜〜っかわい」

ばたんっっ!!!

「はぁはぁ……危なかった……っ」
「……?」

もう少しで暴走モードの母さんが入り込むところだった……。




さて、僕の部屋にある遊べるものと言えば……
携帯ゲーム、パソコン、人生ゲームぐらいのものである。
携帯ゲームも最近は面白いものがいくつかある。
この脳の年齢を測るやつは母さんや兄ちゃんがやってワイワイ言っているが
僕にはずっと脳年齢20歳しか出なくて良くわからない。
それを見せるたびに母さんに羨ましい〜と頬っぺたをつままれる。
どちらかというとこっちの……リズムをとるだけのゲームだがそれがかなり面白いと思う。
意外と詩姫にもウケると思うんだけど。
と、とりあえず渡した携帯ゲームを珍しそうに眺めている。
「あー女の子ってあんまりそういうの買わないもんなー」
「うん……持ってる子もいるけど難しそうだし……」
「簡単だよ。カラオケよりは。ほらここのスイッチ入れるだけ」
ポチッとスイッチを入れるとゲーム機のタイトルの表示があって、
時刻表示とゲームスタートの画面になる。
「それそれ。画面触ってもいいしボタンで押しても大丈夫」
「さ、触るの?」
「そうそう。そのスタートのとこ」
「う、うん」
おっかなびっくり彼女が画面に触れる。
「わっ動いたっ」
すごいっすごいっと嬉しそうに笑う。
みんな持ってるようなもので喜んでもらえて光栄だ。
「んでこれさ、リズムに合わせてボタン押すだけだから簡単だよ」
「そうなんだ? わっ始まったっ?」
言ってスタートの画面ですでにボタンを押し始める詩姫。
「早い早いっ」
「えぇ!? もっと遅く!?」
「いや、そういう意味じゃなくて。
 今の画面はどの音楽でやるか選ぶところだからっ」
「え? え?」
「えと……ちょっとやって見せたほうが早いかな……貸して」
「う、うん」
「これがスタート画面だから……ここでボタン押すとこのステージ選択の画面になって……」

初心者に説明するのはやっぱ実践か……。



チャッチャチャチャチャチャチャチャンチャン♪
パンパンッ♪
「エイッエイッ!」
チャンチャララララララララ♪
パッパッ♪
「ヤッヤッ!」


見ていて微笑ましいほどはまっている。
最初は戸惑いがあったのだが今は全身でノリノリだ。
リズム感も面白いほど上がっている。
「みてっみてっ! さっきより上がってるっ」
「やべ。超えられたかも」
「へへっすごい? すごい?」
「む……負けるかっ貸してっ」
「うんっ」

そんなこんな遊ぶこと数時間。
部屋がノックされて母さんが顔を出した。
妙に嬉しそうな笑みが張り付いている。
「二人とも、お昼にしない?」
「お昼……もうそんな時間?」
時計を見ると確かに昼を回っていてお腹がすいていた。
「アタシもいいんですか?」
「むしろ歓迎っ! 二人とも降りてきてねー」
キュッと顔を ≧ヮ≦ にしてみせると下に降りていった。
僕らは大人しく、お昼を食べに降りることにした。






それが、罠の始まりだとは気付かずに―――。







「それじゃ、お昼食べたら二人とも、買い物に行きましょうかっ♪」





―――昼からは、詩姫が着せ替え人形のように母さんの遊び道具だった。南無。

















「…………お疲れ詩姫」
「う、うん……なんだか目が回ってるよ〜」
フラフラしている詩姫を送る。
「母さんの悪い所なんだ……すぐ人を着せ替え人形にするんだ」
「あははは……でも楽しかったよっ」
「そっか。そりゃ良かった」
夕焼けで真っ赤な空の下。
海岸沿いを僕たちは歩く。
「あっ」
詩姫は何かを思いついたのか防波堤の上に上がる。
「ん?」

「―――ここで、涼二が歌ってたんだよねっ」

彼女は防波堤の街灯の下に立って笑った。
そう、たまたま僕がたって歌っていた場所。
微妙に恥ずかしい……。
照れ隠しに一緒に立ってなんとなく海を見渡す。
夜よりずっと騒がしくみえる海。
それでも歌声を吸い込んで消していくその広さは気持ちいい。
「ねっ涼二っ!」
「何?」
「歌わない?」
「……やだよ恥ずかしい」
「ちぇー」
詩姫は笑顔のまま夕日に向き直る。
「涼二っ!」
「何?」
「涼二は、目指してる?」
「―――何を?」
「シンガー。歌手っ!」
「ん……別に」
「えーなんでーーっ」
「だって一番が遠そうじゃん」
スタートラインが何処でゴールラインが何処なのか良くわからない。
夢って言うのはそういうものなんだろうけど……。
「涼二ならすぐだよっそれに歌の一番っていっぱいあるんだよ?」
「まぁ……そうだけどさ」
それは何を目指せばいいのかわからないじゃないか。
「でも、涼二なら一番のシンガーになれるよっ」
「そうかな……」
「うんっ」
ギュッと右手が握られた。

「ねっ! 一緒にシンガー目指そうよっ」

兄ちゃんを超えている唯一の技能が嬉しくて、僕はレッスン室に通っていた。
その場所は誰も僕を『優一』と一緒に見なくて、
僕を『涼二』と呼んでくれて、『君』が凄いと言ってくれた。
嬉しかった―――……!
僕に初めて唯一をくれて、認めてくれた。
初めにそれを認めてくれたシロ兄も詩姫も先生も―――
僕にとってはとても大事な人だ。

この人たちと、ずっと一緒にいられたらいいなぁと、思う。

だから。

「うん―――じゃぁっ一緒にっ!」


目指そう。
夕日と指切りと約束。

僕の守るべき大事な約束を詩姫と交わした記憶―――。











ちなみに詩姫が指きりの途中で風に吹かれて防波堤から落下した。
その腕ごと掴まれて、一緒に僕も一緒に落ちた―――。



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