34.理想リスク


*Shiroyuki...


いつもの帰り道を歩いてアスミを送る。
「ん。ありがとっ」
「おう。んじゃなー」
「うんっまた明日っ」
オレはアスミに手を振って自分の帰り道を歩き始める。
最近気付いたのだがアスミはオレが見えなくなるまで見送っている。
恥ずかしいから振り向きはしないが。
…………わりぃ……惚気のろけた。

さて、家に帰って詩姫に今日あったことでも吐かせるか。
アスミから見えなくなる道の角を曲がって、ダッシュで帰宅した。


バイク? 毎度使ってるとガス代がすげぇんだぜ?







「ヤーーーーーーーーだーーーーーーーーーっ」
早速根掘り葉掘り聞いていると詩姫が恥ずかしがって逃げていく。
「うへへへ照れるなよー最近の小学生はませてるんだろ?」
エロオヤジ全開でセクハラを開始する。
「だから何も無いって言ってるでしょセクハラ〜〜っ!
 ただ涼二と一緒にゲームしたりおばさんと買い物行ったりしただけだもんっセクハラ!」
セクハラセクハラと連呼される。
「そんなに褒めんなよー」
「褒めてないよ!!」
「照れるな」
「聞いてよっ!!」
「この幸せアルティメットボンバー17号め」
「意味わかんないよっ!」
クケケケッと邪悪に笑いながら飯を食う。
あぁ、最近また料理のレパートリー増えたな。
「お、コレウマイね。なんかよく分からんがナスと肉の焼き物か?」
でもなんかそれ以外に入ってるような。舌が程よくピリピリするし。
「えへへっ結構上手く作れたと思うんだっ。
 隠し味にねっ少しだけ唐辛子刻んでお肉に練りこんであるんだよ」
「なるほどなー」
創意工夫を怠らないこの試み……素晴らしい。いい嫁になる。
まぁ志望がシンガーならあまりそうも言ってられないだろうが。



















いつも通りに学校へ歩く。
日常になった風景。

学校についてイスに座る。
「よう」
「ハヨ」
何かが居ない風景。
あぁ、俺の前後の席の奴らが珍しくどちらも俺より遅いのか。
アスミは俺に合わせてくれるため学校にはギリギリに登校することになる。
まぁ朝なのですぐに来るだろうが。

「昨日のレースどうだったんだ?」
「あぁ、勿論勝ったぞ。しかもウチがワンツーでな」
「やるじゃん。なんだよ、あの黄色いマシンのチームも居たんじゃねぇの?」
「居たな。途中でリタイアした」
雑談で朝の時間を過す。
チャイムが鳴った。
二人は来ない。
おかしい。真夜はともかく水ノ上はもう絶対に席についている時間だ。
HRの為に先生がやってきた。
みんなを静かにさせると朝のHRをはじめる。

「えー皆さんに……お知らせがあります」
先生はいつもより真剣な態度で全員を見ていた。














「水ノ上君が昨日、交通事故に会い……亡くなりました」
























は?






なんだって?

「先日……ご両親から公園から飛び出した子供を庇って
 車に轢かれた―――……と、連絡がありました。


 これから集会になります。体育館に集合してください」
先生が焦った様子で教室から出て何処かへと行った。
生徒達はざわざわと騒ぎ出す。
「お、おい……白雪」
流石の啓輔も動揺を隠せないでいる。
「水ノ上が……?

 あいつが死んだのか……?」

まてよ。
なんでだよ。
あいつが死ぬってありえないだろ?
もっといるだろ、死んでもよさそうなやつって、そうだろ?
生徒達の移動が始まる。
オレも勢いよく立ち上がると足早に校門に向うことにした。

「シロユキ!」
「……アスミ」
「聞いたよねっ今、真夜に電話してみたんだけど繋がらない……!」

「シロユキ!? 何処に行くの!?」
誰が心配とか、
 何がしたいのとか、何処へ行くとか、
  理屈じゃないものがオレを動かした。
 気付いたら走っていた。
わからないまま、何処かへ向かっていた。
携帯を取り出して鳴らす。
コールが鳴る。
出ろ。出ろ。
病院は―――中央病院がある。
とりあえずそちらに向かって走っている。
さほど遠くは無い。
コールが鳴り続ける。
出ないのか。くそっ!
諦めてコールをやめて走る。










病院に着いた。
しかし部外者が聞いて教えてくれるのだろうか……っ
「シロ兄……」
「―――涼二かっ! おい、水ノ上は!? 真夜は来てるか!?」
「……兄ちゃんは……うん。聞いたよね……死んだんだ……。
 真夜姉ちゃんは来たよ。まだ居るかは知らない」
「何処にいるんだ!?」
「うん、ついてきて」
そういって涼二はオレの前を歩き出す。
オレもそれに付いて歩いた。


























不幸を背負う主人公は、静かにそこに横たわっていた。

体に温度は無く、顔に表情は無い。

なんで、こんな奴が死んじまうんだ。
泣いている女の子に目をやる。
声を殺して、彼女は泣く。
「なぁ、オイ……」
その死に体に話しかけた。もちろん答えは無い。
お前はこいつを守るんじゃなかったのかよ。
こいつの為に生きるんじゃなかったのかよ。
おかしいだろ?
お前が居ないと、泣く奴が居るんだぞ……
お前がいないと、幸せになれないやつが居るんだぞ……!!
「何とか言えよクソ……!」
喧嘩もできねぇんじゃ……!
納得もできねぇじゃねぇか……っ!
お前は真夜に傷だけ残して勝手に死んじまうのかよ!!
拳を握った。
殴りたい。
こんな奴、オレが殴り殺したい。
くそ、くそっ!
ギリッと歯が鳴った。







「なんでなんだよ!!! 水ノ上ぇぇぇ!!!」


























―――理想主義だった時代がある。
全員が幸せで、誰も不幸になることなんて無くて。
自分が傷つくなんて思ってなくて。
避けられて。
傷ついて、諦めなくてもっと傷ついて。
臆病になって閉じこもって。
現実主義者になったつもりになって。

誰かの気持ちを考えるなんて怖くて、
それでも、恋焦がれて。
見ていないつもりでいつも見ていて、
関係ない振りをしていつも気にしてて。
手を伸ばせば届くことに安心して。
何時だって理想主義しゃのままだった。





真夜と歩く、オレンジの海岸。
言葉は無く視線が交わされることも無い。
真夜の涙が枯れて、真夜が小さく帰ると口にした。
だからオレが送ることにした。
潮風がオレたちの間を吹き抜ける。

「……あたしね」

不意に彼女が口を開いた。
意外だった。絶対喋らないと思っていたのに。
「……ああ」
「……やっと、いっちーが好きになれてきてた」
「……ああ」
「……気後ればっかりでさ、全然……あたし遠いって思ってた」
「……ああ」
ただ、頷く。
それ以上を聞いても仕方が無いから、彼女が話す分だけを聞いておく。
「どーしょうも無い彼女だよね……気後ればっかりでいっちーに気ばっかり使わせてた」
「……ああ」
あいつはアイツでそれも楽しんでいたけれど。

「―――っっなんでっ、やっとっいっちーにさ……
 ……あたしから好きだよって言えるようになったのに……!」

彼女の声が波打つ。
枯れたと思っていた涙がまた流れ始めていた。

「ねぇ……、シロユキ、あたし、どうしよう、ねぇ、どうすればいい」

壊れかけた彼女は、涙する瞳をオレに向ける。
演技じゃない悲しみの涙が頬を伝う。
それを隠すようにオレは、彼女を抱きしめた。
泣いてるのは、舞台の上でしか似合わない。ずっとそう思っていた。
「っっ……っうぅっひぅっっ」
彼女は、オレの腕の中で震えながら泣く。
強いと思っていた彼女はこんなにも脆くて、弱かった。
彼女は、女の子だったから。
守ってやらないといけない存在だと、オレの心が訴える。

その複雑な思いが渦巻く中で一つだけ気付いたことがある。

ゆっくり手を緩めて真夜を見る。









「……やっぱ……オレ、真夜が好きだわ……」

ゆっくり―――その唇が重なった。

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