36.繋ぐ者達

*Mayo...


アイツだけだろう。
歌に意味を持っているのは。
言葉を誰よりも信じているのは。
あたしには無理だ。
あたしには出来ない。
だって……
その言葉をくれた人が、居なくなったときのことを考えるともう、だめだ。
ねぇ、あたしは間違ってる?
あいつにはアスミが居る。
アスミほど恵まれた人間は居ないと思ってる。
アスミほど、強い言葉に敏感な人間はいないと思う。
あの二人、認めたくないけどぴったりなんだ。
シロユキは臆病になってた。
いつだって強がって笑ってたけど、どこか寂しそうで。
アスミみたいに強くて引っ張ってくれる子が似合ってる。
尻に敷かれてるっていうのかなぁ。まぁ、アスミだもんね。
でも、時折見せる寂しげな笑いとか、バツが悪そうな顔とか凄く気になる。
―――あは、あたしは演劇部だからそういう表情って言うのをよく見てしまう。

ま、あたしには、
        関係ないから。














「真夜ぉっっ!!」
今は、誰とも会いたくないのに。
夜の公園のベンチに座ったまま、あたしは声の方を振り返った。
「真夜っ! ―――……よかっ……たっ! はぁッ!」
息を切らして現れたのは坂城美優。汗だくだ。
あたしの中学校来の親友。
「美優……」
「……ッ! お願い! 織部くんを……!」
「シロユキの話は今しないで」
冷たく拒否した。
あたしは美優から視線を外す。
「お願いっ! 聞いてよ!」
「嫌。聞きたくない」
「真夜っ!」

「煩い! ほっといてよ!!
 何にも知らないくせに! あたしに頼らず自分で何とかしなよ!!」

―――恐らく初めての喧嘩。
美優はあたしをみて固まる。
しかし次第にその大きな瞳に大きな涙と、強い意志が宿った。




「いつだって一緒に居たくせに……!

 いざって時に一緒に居てあげないなんて最低っっ!!」


美優が―――怒った。
彼女が怒るなんてはじめて見た。
初めて―――……美優を、恐いと思った。

「織部くんは、何時だって一緒に居てくれたんだよ!?
 真夜が学校にいないから病院まで走って探しにいったんだよ!?
 真夜が居ないから、歌わないって言ったんだよ!!?」

「―――っっそんなの、知らない!!!」
あいつの勝手だ。
あいつがやりたいようにやった結果だ。
あたしが知ったことじゃない。

「真夜の馬鹿!!! もう知らない!!!」

ガンッ!
彼女がベンチを蹴った。
初めてだ。こんなに暴力的な彼女も。
あたしの前から消えるように走り去る。

なんで、なんでみんなアイツをあたしに押し付けようとするの。
アイツにはアスミって言うもっと良い彼女がいるじゃない。
もう遅いじゃない。
あたしに出来ることなんて……無いんだよ美優。


コレで……いいよね……いっちー……。












*Asumi...


シロユキ……!

私は彼を探して手当たり次第知っている場所を走り回っていた。
―――だって、おかしい。
いつだって電話すれば出た。メールすれば寝ていない限り帰ってきてた。
そんな彼が、何度コールしても出ない。
いくつメールしても帰ってこない。
―――家のほうに電話をしてみたけど、妹さんが帰ってないと言うし。

居ない……!
私はかれこれ2・3時間は探しているだろうか。
海岸通りには居ない。
もちろん学校にも。
商店街をざっと見回ったが居ない。
残るは―――病院、かな……。
ここら辺にある病院で一番大きな中央病院。
そこしかないだろうと私は走った。







*Keisuke...


シロユキの奴……何やってんだろうな。
家の近くのコンビニから出て買ったばかりのコーヒーを開ける。
それを呷るついでに空を見上げて、今日は星が見えないほど曇っていたなと思った。
「―――っは」
飲み終わって顔を下げる。その缶を入り口横のゴミ箱に放り込んで帰途についた。
家からホント数分のコンビニ。
何事もなく家について終わり―――のはずだった。
「た、かいくんっ!」
「―――?」
俺を呼ぶ声がした。
その声は最近あまり聞かないような気がしたが、よく知っている声。
俺は辺りを見回してその声の主を確認する。

「高井くんっ!!」

「―――坂城?」
坂城美優。
彼女はフラフラと頼りない足取りでなんとか歩いていた。
「お、おいっ! 大丈夫か?」
「はっ……平気。大丈夫だよっはぁ……」
「阿呆! んなフラフラで大丈夫なわけないだろう!
 ほら、コレやる。あんまり一気に飲むな」
買い物袋の中からスポーツドリンクを取り出して彼女に渡す。
「あ、ありがと……」
彼女は壁にもたれかかって、素直にそれを受け取って少しだけ口に含んだ。
「んで、どうした。なんかあったか?」
「ん……織部くん、知らない?」
「シロユキ……? いや。居ないのか?」
「うん……あはは私携帯持ってないから……」
「あぁ、確かに連絡付かないなそりゃ」
俺は手早く携帯を取り出すとシロユキにコールをかける。

「―――……」
無言。繋がったのか?
「もしもし? シロユキか?」
『……啓輔か』
「おう。今何処だ?」
『……』
―――答えない。ヤバイな、と瞬時に判断した。
「ま、どこでもいいや。チョット用事があるんだ。俺んちの近くのコンビニまで来てくれ」
『……あぁ、わかった……』
……意外とすんなりだ。
「んじゃな」
『あぁ』

「お、織部くん、来るの?」
「来るっぽいぞ……テンション低いから保障は出来ないけどな」
「ううんっ来るよ織部くんっ」
にこーっといつものように笑う。
この子は……どうみてもアイツにぞっこんなのにアイツ全然気づかずによく3年もいれたよな……。
「ま、会うのは俺じゃないけどな」
「……ごめんね。ありがと……」
「いい。あいつなんかやったんだろ?」
坂城が走り回ってフラフラってことはだ。
相当なことをやったに違いない。

「……うん。もう歌わないって言ったんだ……織部くんが」

―――あいつは、また。
やることなすこといつも唐突だが、今回はまたえらいこと言ったな。
「―――はぁ、それってやっぱ俺が始めに話聞いたほうがよさそうだな」
「……そう、かも」
「ふぅ……わかったよ。場合によっちゃ喧嘩するけど、いいか」
「け、喧嘩は良くないよっ!」

「―――阿呆。今回はそれだけの価値がある」

別に格好をつけていっているわけじゃない。
本当にそう思っている。
あいつが、歌をやめるというなら―――

俺はアイツを殴ってでも、その道を進ませるのが俺の役目だと思ってる。

「―――うんっ……ゴメンね……わたし、何も出来なくて……っ……」
彼女は大きな瞳に涙を宿す。
しかし頬にはすでに涙を流した跡があることに気付いた。
「―――本当に何もできない奴が、フラフラになるまで走らないぞ」
「あは……全然、大したこと無いよ」
「膝笑ってるぞ?」
「……へへ、高井クンの顔が面白いから」
「ほほぅ? 言ってくれるな。膝かっくんでもしてやろうか」
「や、やめて〜」

―――俺たちはそのまま、あいつの到着を待つ。
俺もここまでなったらアイツに問わなきゃいけないことがある。

















『なぁ、シロユキ。お前は誰を選ぶ?』

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